おとす、おとす。

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 *** 「あー……頭、いったい……」  完全に飲みすぎだ。気分が悪すぎて、朝ごはん(もいうお昼ご飯の時間である気もするが)をほとんど食べる気にもなれない。  私は紅茶だけを飲みながら、ぼんやりとテレビのニュースを見ていた。胃薬でも飲めば少しは楽になるだろうか、そのためにはヨーグルトくらい食べないと駄目だろうか――そんなことを思っていた時だ。 『次のニュースです。今朝の十時頃、S駅前の公衆トイレの中で女性が血を流して倒れていると110番通報がありました。すぐに女性は救急搬送されましたが、搬送先の病院で死亡が確認されたとのことです。警察の調べによると、この女性はS駅前の交番に勤務している“野田雪音(のだゆきね)”巡査であるとのことで、野田巡査は……』 「へ?」  私は思わず、素っ頓狂な声を上げてしまうことになる。テレビに出てきた一枚の写真。被害者として名前を挙げられた女性の顔に、私はまさに見覚えがあったからだ。丸い眼鏡をかけた、整った顔――間違いなく、私が昨夜落し物を届け、それを受け取ってくれた女性警察官に他ならなかったのである。  なんで、と混乱した。彼女の勤務時間がいつまでなのかはわからなかったが、少なくとも昨夜の十一時頃まで彼女が元気であったのは確認しているのだ。しかも警察官。いくら彼女が女性とはいえ、仮に誰かに襲われたとしても、そう簡単にやられてしまうとは思えないのだが。 『死因は、出血多量により失血が原因と見られています。野田さんは昨晩の勤務担当でしたが、発見当時は制服ではなく白いワンピースを着ていたということで、警察は関連性を調べています……』  はっとして、私は自分の携帯電話を見た。ふらついていたため、まだスリープさえも解除しないままベッドの枕元に携帯を転がしていたのである。確認してみれば、何度もどこかから着信が入っていた。これは、もしや。 ――警察……!  酔いの気持ち悪さは、悪い意味で吹っ飛んでしまっていた。留守番電話に入っていたメッセージを確認すると、私は急いで身支度を整えて家を飛び出したのである。一度顔を合わせただけとはいえ、どうしてもほっとくことなどできなかったのだ。一体どうして、あの女性は殺されてしまったのだろう。それも、まるで白装束でも誂えたような奇妙な服装で。
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