神様のパパ

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 私は神様を団地の部屋まで連れて帰った。そのままママが帰ってくるまで待つことにしたんだけど、ママと二人きりで話をしなくちゃいけないから私は下の公園で待つように神様に言われた。話が終わったら神様とママが二人で迎えに行くから、と。  でも空が暗くなって、団地中の部屋に明かりが灯っても、なかなか神様は迎えに来てくれなかった。きっともうママはとっくに帰ってるはずなのに。私はブランコに揺られながら、まだかなまだかな、とそわそわしながらお迎えが来るのを待ち焦がれた。  そのうちサイレンの音が聞こえて来たと思ったら、団地の前の広場に沢山のパトカーや救急車が次々とやってきた。くるくる回る幾つもの綺麗な赤い光に見とれていると、私を迎えに来たのは神様でもママでもなく、知らないおまわりさんだった。 「ママが大変な事になったから、一緒に来て欲しい」 「でも、ここで待つように言われたの。神様とママが、迎えに来てくれるって」 「神様?」  おまわりさんは怪訝な表情で「ママは来れなくなっちゃったんだよ」と言った。理由は教えてくれなかったけど、パトカーに乗せてくれるというから仕方なく私はおまわりさんについて行った。  初めて乗るパトカーの中は真っ黒い革張りで、桜子ちゃんみたいにお金持ちの匂いがした。多分、クラスの中でもパトカーに乗ったことのある子なんていないはずだ。今度みんなに自慢してやろうと思った。新しいおもちゃの自慢をする桜子ちゃんみたいに。 「この人を知ってる?」  警察署で見せられた写真には、髪と髭がぼさぼさのままの神様が写っていたから私は「神様です」と正直に答えた。 「どこにいるか、わかる?」  それで私はピンと来た。このおまわりさんは、神様を探してるんだ。きっと何か困っていることがあって、お願いごとをしたいに違いない。 「神様を探して、何かお願いをするの?」 「お願い? ……お願いって、どういう意味だい?」 「何かお願いごとあるんでしょう? 神様は、お願いをなんでも聞いてくれるんだよ。桜子ちゃんのことも、前のパパのこともやっつけてくれたの。今度私の新しいパパになってくれるんだ」  私がにっこり笑うと、おまわりさんは困った顔をした。  神様がパパになっちゃったら、お願いごとをしたいおまわりさんは困るもんね。でももう遅いよ。これからはママと神様のパパと三人で楽しく暮らすんだから。  あーあ、早く家に帰してくれないかなぁ。
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