白雪姫と魔女

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 どすん、とリビングのソファーに座り、私はわくわくしながらドーナツが出てくるのを待った。学校が終わる時間など彼女はとっくに把握済みだったのだろう。すぐに焼きたてのドーナツがキッチンから出てくる。それも、ホールケーキくらいの巨大なサイズの代物が二つも。今日もこれを一人で全部食べていいの!?と言うと彼女はもちろんよと笑顔で頷いた。 「なんだか、申し訳なくなっちゃうわ」  私は両手にドーナツを持ってもしゃもしゃと交互に食べながら告げた。 「だって、せっかくのお菓子……アーリーンはいつもほとんど食べないんだもの。紅茶とクッキーを少し頂くだけ。私だけいっつも食べてて、本当にいいのかしらって思うわ」 「いいのよ。だってこのお菓子は全部、アーリーンのために作ったんだもの」  そうねえ、と。アーリーンは私を一瞥して――告げる。その目がいつもと違う光を放っているように感じるのは、気のせいだろうか。 「今日はブリアナに、特別なお話をしてあげるわ。白雪姫と、魔女のお話を」 「しらゆきひめ?ってそれ前にも聞いたような……」 「前に話した白雪姫と、似て非なるお話よ。そうね、貴女は賢いから、あの白雪姫のお話はしっかり覚えてるでしょう?白雪姫が世界で一番美しいと聴いて、嫉妬に狂った魔女のお妃様は白雪姫を毒林檎で殺してしまおうと画策し、失敗する。そういうお話だったわよね」 「ええ、そうね」 「私はね。あのお妃様は失敗だったと思うのよ。世界で一番美しい女になるために、白雪姫を殺す必要が本当にあったのかしら……ってね。だって、人を殺してしまったら犯罪になるでしょう?大嫌いな白雪姫を殺すために自分が罪人になって檻に入るなんて、そんなのあんまりだと思わない?」  言われてみれば、その通りだ。最終的にお妃様は死んでしまって、捕まって檻に入るようなことなどなかったが。もし彼女が生きて王子様に捕まるようなことがあったなら、きっと殺人未遂の罪で投獄されて、一生を台無しにしていたことだろう。  せっかく世界で一番美しい女になれても、それではつまらない結果にしかならないのではないか。それともお妃様は、自分が絶対捕まらない自信があったのだろうか。 「これは、もっと賢い魔女のお話」  ぎしり、と彼女が足を組み替えたことで、ソファが音を立てて軋んだ。
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