白雪姫と魔女

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白雪姫と魔女

「やあブリアナ。今日も可愛いねえ」 「ありがとう、レンツさん」  町の貸本屋さんに声をかけられ、私は本を返しながら微笑んだ。可愛いだの、美人だの。幼い頃から私を賞賛する声は少なからずあるが、正直なところあまり嬉しいと思ったことはなかった。仮に本当に私の顔が整っているのだとしても、それは私が努力して得た結果ではなく、綺麗なお父様とお母様の顔を受け継いだだけに過ぎない。私の能力そのものを、褒めて貰ったわけでもなんでもないのだ。  それよりも私は、同年代の少年達よりずっと足が速いこととか、たくさんの物語を知っていることなどを褒められた方がずっと嬉しかった。自分が頑張ったことを、成果として賞賛される方がずっといい。ましてや――この顔のせいで、新しいお母様と馴染むことができずにいるから尚更である。  我が家には、私以外に子供がいない。貴族の家ではないとはいえ、長年続いてきた印刷業の仕事を引き継いでくれる男児というものは必要だ。ゆえに、父が後妻を娶ることになったことに、私としても反対することはできなかった。男の子の後継が欲しいなら、どうしても新しい妻の力は必要だとわかっていたからである。  しかし本音を言うのであれば、もう少し心根の優しい人を選んで欲しかったとも思ってしまうのだ。義母は美人であったが、何かにつけて厳しく冷たい人であった。女の私についてもマナーに関してきつい指導をし、剣の稽古をするようにと専用の家庭教師を雇う始末。私は彼女が怖くて仕方なかったし、体力的にも厳しい剣の稽古というものが嫌いで仕方なかった。彼女はきっと私のことが嫌いなのだろう。だから、顔を合わせるたびに叱るし、私がこうして貸本屋にばかり足を運んで空想の世界に逃げるのを良しとしないのだ。  その結果、家にいたくない気持ちが強くなり、しょっちゅう家を抜け出しては町に繰り出す始末。そして義母との溝は深まる一方。ぐるぐる巡るような悪循環から、私は抜け出せない毎日を過ごしていたのである。
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