昼と夜の間の女

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手を握ったまま視線を合わせると、彼女の瞳にようやく意思が浮かび上がってくるのが見て取れた。 「どこかで聞いたことある名前だなって」  慌てている。店では聞けないような裏返った早口。  林は思わず吹き出してしまった。 「もしかして、ナンパ?」  堪えきれない笑いの合間に聞くと、彼女はそれまで林に好きにさせていた手をすっと引っ込めてしまった。もう二度と林に好きにさせたくない意思表示のつもりだろう、着込んだフリースのポケットに両手を突っ込んでいる。 「……するわけないでしょう」 と返してきた女が意識して平坦な口調なのが透けて見えるから、林はこそばゆい気持ちになってくる。 「……ですね」  林も、手持ち無沙汰になった自分の手をコートのポケットに突っ込んだ。 「今日の月、やけに綺麗ですね」  沈黙に耐えられない林がそう言うと、今度は女の方が、 「ナンパですか」 と聞いてきた。 「そうかもしれません」 と言って見つめ返したら、急に女の両目から涙が溢れ出た。林は驚きのあまり固まってしまった。ガチャガチャいわせながら自転車に乗った女の背中に、待って、と言った気がする。彼女は振り返りもしない。
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