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雪が、ちらついてきた。
その日以降、コンビニに寄っても女を見かけなくなった。彼女はパートを辞めたのだ。真新しいコンビニの制服を着た東南アジア系らしい青年が教えてくれた。
廣木の結婚式は翌年の五月に行われた。羨ましさは、純粋に祝福する気持ちに変わっていた。林は廣木がハネムーンから帰るのを辛抱強く待った。
待ち合わせた居酒屋、顔を合わせた親友がすっかり既婚者の顔つきになっていた。
「おー、久しぶりだな……って颯人、今日、やけにめかしこんでね?」
当たり前だ。今日は一世一代の勝負のつもりで出てきたんだからな、と言いかけてやめる。理由を話せば、廣木は根掘り葉掘り聞き出したがるだろう。その時間が惜しい。
「あー、それよりさ……」
話を切り出すと、廣木は眉を寄せて小首をかしげた。
「え? 前、お前に借りたビデオ?」
林は廣木のグラスに手で蓋をした。こいつは呑む時いつもピッチが早い。酔ってもらっては困る。
「そう、急に見たくなってさ。返して欲しいんだ」
引っ越したばかりと聞いていたから、結婚前の持ち物は実家に置きっぱなしだろうと踏んでいた。
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