ハロウィン・ツアー Ⅰ

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 悲しげな、琴美の瞳だった。  最古参の地縛霊と言っていたが、その瞳は悲しみを知るが故の、慈愛に満ちた瞳だった。  琴美はその瞳で、稜斗が自己顕示欲の欠落した少年なのだと見抜いていた。  本来、人が自然の摂理の中で自由に生きるのなら、自己顕示欲など必要は無いだろう。  だが、人間社会の中で生き抜く為には、ささやかであっても自己顕示欲を持つことが、手っ取り早くアイデンティティーを確認したつもりになれる、かりそめの手段となるのだ。  稜斗の心には、自分が死ぬことに対する恐怖が無ければ、生きることへの執着も感じられない。むしろ、望んで死を受け入れようとしているようにも感じられる。  言い換えれば、少なくても稜斗は、生きることへの未練が無い程度に、人生に絶望していると言えた。  琴美が最初に「まだ若いのに、不憫な子ね」と稜斗に言ったのは、稜斗が持つ、人生への絶望に対しての言葉だった。  刺されたことにより、稜斗が命を落としてしまうなら、それが稜斗の運命であり寿命だが、出来ることなら、生き延びて、幸せな人生を謳歌して欲しい。そう琴美は望んでいた。  そして、琴美ほど稜斗の心を読み取れたわけでは無いが、稜斗の幸せを願うのは小嶋も同じだった。
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