35人が本棚に入れています
本棚に追加
安心しきった女の子の声と、粗野だが温かみのあるロードの声が、脳内から稜斗の胸に染み入った。
ふと、気が付くと、稜斗の目の前でその少女が、微笑みながら稜斗を見つめていた。
小学校の低学年ぐらいだろう。
あどけない微笑みの少女の服装は、稜斗が産まれる以前のファッションだった。
この少女は、ひとりぼっちで、何年間、自分が命を落とした横断歩道にいたのだろう?
そう考えた瞬間、少女の悲しみや寂しさと言った感情が稜斗の中に湧き出てきて、稜斗の涙腺が崩壊しかけた。が、少女と手を繋ぐ男に視線を移して、溢れかけた涙が引っ込んでしまった。
やせ形の長身。モノクロ映画に出てくるような、正統派二枚目マスク。黒髪のポニーテール。
黒の細身のパンツに、黒のタンクトップ。
黒いロングの特攻服を羽織り、背中に日本刀を差しているのだが、女の子と繋いだ反対の手には、横断歩道にある、黄色い横断中の旗を持っていた。
年齢は自分よりも少し上のように感じるが、もっと上にも思える。
顔と日本刀はさておき、一つ一つのパーツが驚く程にインパクトがあるわけでは無いが、死神と言うワードから連想していたイメージと、実像が醸し出すインパクトのギャップが衝撃的だった。
「おっ!気が付いたのか!」明るい声でロードが稜斗に声をかけた。
黄色の旗を、まるでタクトを振るように、嬉しそうに振り回していたので、小嶋がロードに尋ねた。
「大将、何でそんなもん振り回しているんですか?」
「俺、ツアコンだから、やっぱり旗は必須アイテムだろ?………それからお前ら、勝手に人を死神にして、喧嘩してんじゃねえよ」
ロードは余程、みんなに慕われているのだろう。
ロードの出現で、場の空気が一瞬で明るさを取り戻した。しかし、琴美と教授の笑顔には、他の皆と違う感情が入り交じっていることを、稜斗は感じ取っていた。
最初のコメントを投稿しよう!