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救助の狙い
俺は掴むものを間違えたようだった。バスタオルではなく向こう向きの彼女の右腕を掴んでいた。その腕を手前に引き込んだか否や、彼女の身体を対面に置き換えてしまった。
「円谷さん、教えてくださいよ! 俺が太平洋にダイブしたのは偶然なのか、それともこの基地の・・いや政府の計画だったのか・・いったい君はどこまで知らされているんだ?」
「そのようなお話なら、ディナーの席ででもご説明いたしますので、どうか、その手を放していただけません?」
「イヤだと言ったら?」
「ん~・・ならこうするしかないです!」
円谷は言うが早いか、逃げ出すのかなと思いきや、なんと俺の胸の中に飛び込んできたのだ。
「円谷さん・・エッつ!」
俺は抱き上げた円谷を自分のベッドまで運んだのだった。
「円谷さん・・大丈夫?」
「円谷じゃ駄目なの!“みどり”って言ってください」
「みどり・・さん大丈夫?」
「何が?・・大丈夫って・・何が?」
「この部屋には窓が無いのは一目見りゃ分かるけど、監視カメラって本当に無いよね?」
「ここは政府の出先機関なんだって説明聞いてたでしょ! 間宮さんからモーション掛けておいて、なにビビってんのよ⁉」
「円谷さんは政府の機関だから健全・明朗だって言いたいんだろうけど、それならハローワークで募集すりゃいいのに、どうしてこんなに手間かけてまで俺なんだ? おかしいと思う俺の方が変なのかな?」
「えぇ、間宮さんは変人です! 私をベッドにまで運んで置いて、こんな会話ばっかで、確かにオカシイ人です!」
「ごめん・・」
「誰に謝ってるのよ? どうせ東京に居る二人の彼女でしょ⁉ あ~もう止めた!こんなに恥かいたの初めてだわ!」
「みどりさん・・ごめん」
みどりはベッドから降りると部屋に脱ぎ散らかしたパンプスを拾い上げ化粧台の椅子に腰かけた。そしてパンプスを履きながら器用に髪の乱れを整えるのであった。
「間宮さん、私の部屋のディナーだけど、この部屋に持ってこようか?」
「どうして・・面倒だろう?そっちに行くよ!」
「でも、いろいろ聞きたいのなら監視カメラの無いお部屋の方がもっと楽しいんじゃない」
みどりは俺がシャワーを浴びる前とはまるで別人を感じさせるほどの変わりようだった。いつの瞬間か、どうやらみどりは室長から俺に乗り換えたようにも思えた。
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