転落事故

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「おぅ、眩しいじゃないか!何だこれは⁉」 俺が目線を前方に戻した瞬間だった。これまで隠れていた夕日の奴が、雲の切れ間を見つけたかと思うとたちまち顔をのぞかせたのである、俺は慌ててサンバイザーを降ろした。 そう・・降ろしたサンバイザーのお陰で、俺の前方視界の殆どは塞がれてしまった。 「おっと、危ない!眩しいどころか、これじゃ何も見えないじゃないか⁉」 暫くすると俺の車は何か大きな障害物を乗り越えたような衝撃を感じた。俺は無意識にブレーキを、これでもかと踏み込んでいた。  俺は直ぐにサンバイザーの角度を更に奥へと押し込んだ。走行する道路の視界を挽回したかったからである。 だが、この頃からだったか俺の耳はツーンと耳詰まりを起こしてしまった。トンネルに入ったときなんかに感じる気圧のいたずらなんかと同じだ。でも一つ違うことは、このトンネルは灯り一つも無い真っ暗闇だった。 「確かにこの道路は日高山脈を横切るように走っている。だが、辺りは殆ど海じゃないか⁉ 気圧の変化などあろうはずもない・・しかも何だって暗闇なんだ!」  どうやら変化したのは気圧だけでは無かったみたいだ。目前にしていた夕焼けも消えて無くなっていた。右手にそびえ立つ水力発電機も・・そして何よりも先ほどまで見えていた前方の道路までもが消えてしまったのである。 「辺りが真っ暗なのに、光の筋の分だけが前方を照らしているみたいだ。そうか、EE機能が動作して車のヘッドライトが自動点灯したんだ」  よく見ると光の筋の先には、幾つかの魚たちが映し出されていた。 「どうしてこんなところに魚が?・・まさか、だがこの映像は決してプロジェクターの仕業のようではない。そう、虚像じゃなく全くの実像だ!」 ようやく、状況が飲み込めて来た俺は大きく深呼吸をした。車内に、まだ空気が有ることを確かめたかったのだ。 「サンバイザーで視界が遮られた際、どうやら俺の車は太平洋に突っ込んでしまったようだ・・早く脱出しなければ、いずれ海水が浸水してくるぞ!」  俺はドアロックを解除して、ドアに右肩を預けた。 「ウ~ン・ウ~ン、駄目だビクともしない! そうだウインドガラスを壊すんだ!」 俺は助手席のヘッドレストをシートから引き抜いた。そして運転席のガラスとドアの間に挟み込んだ。以前にテレビ番組で見たシーンを思い出していたからだ。後はテコの原理でヘッドレストを手前に引っ張る!そう、思い切りだ! 「なんだあれは? ガラスの向こうに居るのは何だ? これってウミガメ?か・・俺は水族館に遊びに来たのではない、今、正に急いでいるんだから」
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