政府機関

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政府機関

 俺は彼女の後に着いて歩き始めた。洗車場とは違い廊下には真っ赤な絨毯(じゅうたん)が敷き詰められている。まるで国際ホテルの廊下を歩いているようだった。 彼女は或る部屋の前に来ると一度立ち止まり俺に一言いった。 「こちらで暫くお待ちください」 そう言った彼女は部屋のドアをノックすると同時にドアを開け、部屋に入っていった。  暫くすると再びドアが開き、先ほどの女性が左手でドアを制し、右の手で入室を促した。俺は指示されるままに入室した。でもそこはダウンライトの照明だけの薄暗い空間でしかなかった。ドアにロックを施した彼女は再び俺に言った。 「こちらにどうぞ」 俺は指示通り彼女の後に続いて歩いた。そしてようやく広い居室にたどり着いた。 「室長、お連れしました」 「円谷、ご苦労でした!持ち場に戻ってください」 「ハイ、室長」 円谷という名の彼女は私に一礼すると、入り口の方へ戻って行った。 「どうぞ、そちらへお掛け下さい。そう緊張なさらずに・・さっ、どうぞ」 室長という人物は40歳代の女性で俺には凛々しく見えた。今度はCAではなく操縦士の制服にそっくりである。一つ違を言えばブーツを履いている、しかも軍人が履くようなものである。 「あの~、室長さんでよかったですよね?・・この度はお助け頂きまして有難うございます」 「間宮潤さんですよね⁉ お疲れさまでした」 「えっ、どうして俺の名前を?」 「間宮さんには申し訳ないんですが、あなたの事は全て調査させていただいております」 「調査って? どうして俺の事なんか? いったい、あなたは誰なんですか?」  俺の全てを調したって聞いたところから、救助してもらった感謝どころか、むしろ疑いを抱いてしまったのである。 「私はこの基地の代表であり、このフロアーの室長でも有ります。名前は高橋とお呼び頂いて結構です」 「って仰いましたよね、そもそもこちらは何をする基地なんですか?」 「全てをお話することは出来ませんが、政府からの指示に従って仕事をしています。だから決していかがわしい組織ではありません。また我々からあなたに危害を加えることなどは有りませんので、どうかご安心頂いて結構です」 「つまり政府の出先機関って訳ですよね⁉ でもそれと俺がどんな関係が有るって言うのかな? そもそもあんた達は俺のどこまでを知っているのかも、疑わしいもんですよね」 「間宮潤・38歳男性・独身だが現在二人の女性と交際中、仕事は定期輸送機の操縦士、総飛行時間は・・」 「もうイイです! 分かりました!・・だがそこまで俺のことを知った上で救助したのなら、そちらに何か利があるに違いない・・そうじゃありませんか高橋室長!」   ようやく冷静になることが出来た俺だが、肝心の海に転落した瞬間をどうしても思い出すことが出来ない。もしかしたら海になんか転落していなかったのかも知れない。
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