2人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
政府機関
俺は彼女の後に着いて歩き始めた。洗車場とは違い廊下には真っ赤な絨毯が敷き詰められている。まるで国際ホテルの廊下を歩いているようだった。
彼女は或る部屋の前に来ると一度立ち止まり俺に一言いった。
「こちらで暫くお待ちください」
そう言った彼女は部屋のドアをノックすると同時にドアを開け、部屋に入っていった。
暫くすると再びドアが開き、先ほどの女性が左手でドアを制し、右の手で入室を促した。俺は指示されるままに入室した。でもそこはダウンライトの照明だけの薄暗い空間でしかなかった。ドアにロックを施した彼女は再び俺に言った。
「こちらにどうぞ」
俺は指示通り彼女の後に続いて歩いた。そしてようやく広い居室にたどり着いた。
「室長、お連れしました」
「円谷、ご苦労でした!持ち場に戻ってください」
「ハイ、室長」
円谷という名の彼女は私に一礼すると、入り口の方へ戻って行った。
「どうぞ、そちらへお掛け下さい。そう緊張なさらずに・・さっ、どうぞ」
室長という人物は40歳代の女性で俺には凛々しく見えた。今度はCAではなく操縦士の制服にそっくりである。一つ違を言えばブーツを履いている、しかも軍人が履くようなものである。
「あの~、室長さんでよかったですよね?・・この度はお助け頂きまして有難うございます」
「間宮潤さんですよね⁉ お疲れさまでした」
「えっ、どうして俺の名前を?」
「間宮さんには申し訳ないんですが、あなたの事は全て調査させていただいております」
「調査って? どうして俺の事なんか? いったい、あなたは誰なんですか?」
俺の全てを調査したって聞いたところから、救助してもらった感謝どころか、むしろ疑いを抱いてしまったのである。
「私はこの基地の代表であり、このフロアーの室長でも有ります。名前は高橋とお呼び頂いて結構です」
「この基地って仰いましたよね、そもそもこちらは何をする基地なんですか?」
「全てをお話することは出来ませんが、政府からの指示に従って仕事をしています。だから決していかがわしい組織ではありません。また我々からあなたに危害を加えることなどは有りませんので、どうかご安心頂いて結構です」
「つまり政府の出先機関って訳ですよね⁉ でもそれと俺がどんな関係が有るって言うのかな? そもそもあんた達は俺のどこまでを知っているのかも、疑わしいもんですよね」
「間宮潤・38歳男性・独身だが現在二人の女性と交際中、仕事は定期輸送機の操縦士、総飛行時間は・・」
「もうイイです! 分かりました!・・だがそこまで俺のことを知った上で救助したのなら、そちらに何か利があるに違いない・・そうじゃありませんか高橋室長!」
ようやく冷静になることが出来た俺だが、肝心の海に転落した瞬間をどうしても思い出すことが出来ない。もしかしたら海になんか転落していなかったのかも知れない。
最初のコメントを投稿しよう!