2人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
転落事故
車はひたすら西に走る。前方には橙色に染まった雲がまるで照明器具のアクリルグローブのように夕日の眩しさを隠してくれている。前にも後ろにも俺の車以外は一台も見当たらない・・この道を西に走る車は俺一人のようだ。
「なんとロマンティックなんだ・・ダメダメ、急がないとロマンティックどころかチェックインに間に合わない!」
俺は更にアクセルを踏み込んだ。だが、いくらアクセルを踏み込んでも、前方から左手に広がる太平洋との距離は一向に縮まる様子はない。
「俺は今、何処を走っているんだ? よく見ろよ、ナビ通りに走っているじゃないか! だったら迷ってなんかいない筈だろう?・・」
一人旅とは寂しくて実に空しい限りだ。だって俺の独り言を聞いてくれる奴はここには居ないもの。あえてそんな一人旅に執着し東京を出たのも俺だから、人って面倒くさい動物である。
右手を占有する丘の上では西側半分だけが夕日に照らされた扇風機の化け物たちが見えて来た。一つ・二つ・三つ? いやこれ以上数えられない、と言うかこんなハイスピードでこれ以上のわき見運転は危険だ!
テレビや雑誌では何度か見たことが有ったが、風力発電機をこんなにも傍で見たのは初めてだ。モアイ像の何倍もデカい!とにかくデカい!10階建てのビル以上の高さはある。
「そう言えば、テレビのドキュメンタリー番組でも紹介されていた。この発電機の柱の錆落としをする職人さんの話だった。誰が垂らしたものか説明は無かったが、職人はロープにぶら下がっての作業だった。」
俺が驚いたのは、お昼のランチもロープにぶら下がったままで、手作りの弁当を食べていた。
一度地上に降りてしまうと再び上るのに大変なロスが生じると言う訳だ。
最初のコメントを投稿しよう!