自分の絵に心が与えられた少年の話

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少年はいつも、絵を描いていた。 両親は共働きで、遅くまで帰って来ない。出張で、家に帰らないことも多い。いつも自分で鍵を開けて家に入って、面倒な宿題は、さっさと終わらせて。そしたら少年の、夢のような時間が始まる。 両親にお願いして買ってもらった、大人が使うような立派な絵の道具。画用紙も、絵の具のセットも、大層良いものだった。 そこに少年は、自由に描く。今描いているのは、人間の絵だった。とは言っても、実在する人間ではない。少年の頭の中にいる『ともだち』だった。 丸い金色の中に、少し橙の混ざった瞳、すっと通った鼻筋、愛らしい唇には、程よく赤を差して、顔立ちは、整えて。髪は、やはり月みたいな、銀色が良い。 そんなアニメのキャラクターみたいな端整な姿が、彼の好みのドストライクだった。 しかし、女の子ではなく、男の子が良い。女の子が考えることは、よくわからない。『ともだち』なら、やはり男の子が良い。 少年の前ではニコニコと楽しそうに笑っているのに、少年がいないと思っているところでは怖い顔をして罵り合っていることもある女の子のことが、少年はさっぱりわからなかった。 名前は、何がいいか。彼に似合う、美しい名前が良い。考えた末、少年は『アキ』と名付けた。夕焼けのような瞳を持つ彼に、ちょうど良いと思ったのだ。 『アキ』は、もうすぐ完成する。後は、瞳の真ん中に、より濃い金色を差すだけだ。 その絵は、ずば抜けて上手いというわけではなかった。しかし、まだ幼い小学生の男の子が描いたにしては、実に真に迫るものがあった。 窓からの日の光が、少年の絵を照らす。『アキ』の姿が、光の中に浮かび上がる。昼から夜に変わる狭間で、最後の力を振り絞って輝くその光が、少年は好きだった。 少年は、筆に、色を着けた。様々な色を混ぜて作り出した好みの金色を、『アキ』の瞳の真ん中に、置いた。 両目とも色を差した瞬間、奇跡が起きた。もう、沈もうとする日の光の中に、『アキ』が現れたのだ。その姿は、少年が描いた絵、そのものだった。少し稚拙な線も、滲んだ色ムラも。違うのは、『アキ』の絵は、胸から上だけだったにも関わらず、確かな実体を持って、少年の前に、二本の足で立っているということだった。 『アキ』は、腰を抜かす少年を見下ろして、ふわりと愛らしく笑った。その笑顔に、少年の目は、釘付けになった。 『君はもう、一人ではないよ。』 『アキ』はそう言って、少年に手を差し伸べた。
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