自分の絵に心が与えられた少年の話

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「まぁ、俺のただの勘だ。少女が声を失った時期と、アキが現れてくれた時期が被っていたし、アキと少女には、似通った点が多かったからな。推理とも言えない。」 「...なら、君は、勘だけで名探偵になれるかもしれないな。」 アキは、そう言って、少し笑った。なんだが、泣きそうな、覚悟を決めるような、なんとも言えない表情だった。 「さて、真相はわかったが、名探偵。君は、どう行動する?」 「どうって。」 「決めていないのか?俺は、器は君の絵のコピーだが、中身は、あの少女なんだぜ。このままだと彼女はどうなる。」 言われて、少年は考える。少女の中身が、アキの中にあるということ。それは少女には一生、声と心が、戻らないということ。 「選択を誤るなよ。」 アキは、少年をじっと見た。真剣な色をした夕焼け色の瞳が、あと少しで消えそうな日の光の中で、きらりと輝いた。 「俺は、永遠に、君とともにいることを願っている。」 そう言った後で、アキはふいに表情を緩めた。細められた目からは、何の感情も、読み取れなくなってしまう。 「考えてもみてくれ。俺は今まで君とともにずっと、過ごして来たんだ。それに引き換え、少女は、君が少し話をして、彼女は殆ど微笑んでいるだけだろう。天秤にかけるまでもない。」 アキのいう通りだった。少年にとって何よりも大事なのは、自分の側にずっと居てくれる『ともだち』の、アキだった。天秤に、かけるまでもなかった。だが、妙な違和感が、拭えない。 「単純に考えてくれ。君に必要なのは、どんな存在なんだ?」 アキは相変わらず、瞳の色を覗かせない。何かを隠すように、目を細めたままだ。 「なぁ、間違えないでくれよ。」 アキの瞳がやっと、見えた。夕焼けに照らされた瞳は、何かを必死に訴えているように、少年には見えた。水面に写った夕焼けのような瞳と目が合った瞬間、少年は、違和感の正体に気付いた。 アキは、いつも、少年に人間らしい幸せを、望んでいた。だから、少年の想いに、応えてはくれなかったのだ。そんなアキが、自分を選べということに、少年は、違和感を覚えていたのだ。 だったら、答えは簡単だ。選ぶべき道は、これだ。 「アキ。」 少年は、アキに近付いた。そしてそっと、口づけた。もちろん、アキの唇のあたりに、自分の唇を寄せただけだったが、なんだがぬくもりを感じたような気がした。 日の光は、もう、かろうじで見える程度だった。 「君...」 「俺は、アキが居たから、一人ではなくなった。幸福だった。本当にありがとう。」 震えるアキの声に被せて、少年は言った。『アキ』とは最後だから、言いたいことは、全部言った。 「俺は、大丈夫だから、もとの場所に戻ってくれ。」 アキは、目を見開いた。そして、ふんわりと、実に愛らしく微笑んだ。 「やはり、君は勘だけで名探偵になれるな。」 そして、アキはそっと、少年の身体を抱き締めた。感じないはずのぬくもりに、少年の心は震えた。 「俺も、楽しかった。ありがとう。君のこと、ずっと大好きだぜ。」 ぬくもりが、消えていく。それに合わせるように、かろうじでふたりを照らしていた日の光も、夜の闇に吸い込まれた。
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