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黒い帚星
「短い尾っぽを持った黒い帚星が地球に迫っている」
偉い学者が発表した。
「その帚星は光を吸い込んで誰にも見えないのだ」
とその学者は続けた。
「そんなことが有るものか、だったらどうやってその帚星を発見したんだね?」
と記者が聞いた。
学者は黒板に難しい数式と図を書いて、
「重力の歪みが地球に迫ってきている、これはブラックホールが帚星のように飛んでいる証拠だ」
と説明した。
難しい数式と図は誰にも理解できなかった。
「ブラックホールが地球に迫ってきているなら大変だ、我々は消えて無くなってしまうぞ!」
と大声で不安を煽る者がいた。
人々は恐れおののいた。
多くの人が望遠鏡を買い、空を観測した。おかげで望遠鏡は入手困難となり高値で転売された。けれど黒い帚星を誰も見つけることは出来なかった。
神に頼り祈りを捧げ始める人も多かった。不安を煽り運気の上がる壺を高値で売りつける者も現れた。けれど不安は消えなかった。
ある者は地下に避難用シェルターを作った。しかしブラックホールには役に立たないだろう。
ある者は自分と家族が逃げられるように小型ロケットを作ると言い出した。しかしブラックホールが来るまでには間に合わないだろう。
スーパーコンピューターがフル稼働して軌道と到達日時の計算をした。しかし過熱して停止してしまった。
多くの学者たちがひと月かけて、さらに複雑な数式と図を書いた。しかしそれは黒板を何百枚使っても終わらなかった。
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