鬼への手紙

3/6
前へ
/6ページ
次へ
 地図と赤ペンを持って、一丁目から順番に歩く。  ただ歩くだけ。  近くに女がいれば、匂いで絶対に分かると思った。  顔も名前も年も分からない。  でも、いい女に違いない。  俺にはその確信があった。  時折、女の残り香をかすかに感じることがあった。  きっと、この道を通ったことがあるんだろう。  俺は女の残り香をたどって、その近くを重点的に探すことにした。  そして、ある日、見つけた。  まだ夏休みは半分以上残っている内に、あっけなく、女を見つけた。  女はスーパーからエコバッグを下げて出てきた。  美人……かどうかはよく分からないが、とにかくいい女だ。  俺と目が合う。  でも、まったく知らない顔でスタスタと歩いていく。  俺は焦った。  目が合えば、女にも俺が分かるのだと思っていたからだ。  俺は女の後を付けた。  俺をストーカーと言った裕也の顔が浮かんだが、ここで見失うわけにはいかなかった。  女は細い路地に入って、古臭いアパートの階段を上がっていく。俺は足音を隠しもせずに後ろからその階段を上がって行った。  女がポケットから鍵を取り出す。以前に拾ったリボン付きのキーホルダーと同じものだった。  女がガチャリと鍵を開けて、ドアを開ける。  俺は走った。  女に飛び掛かるようにして一緒に部屋の中に入り、その細い体を押し倒した。  女がきゃっと悲鳴を上げる。  レイプする気は無い。  でも食べたい。  この女を食べたい。  俺は女の白い首にがぶりと噛みついた。  女がまた悲鳴を上げる。  そして。 「痛いだろ! このばか!」  女が俺の頭を殴った。  しかも、でっぱっているこぶのところを。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加