二人のハル

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 ◇◇◇  「ふぅ……」  英語の参考書から顔をあげた。時刻は……午後3時半。まだまだ太陽は空高く昇っている。しかし、勉強するのはもう飽きてしまった。参考書とノートをお互いに挟み込むような形で閉じると、同時に犬の鳴き声が聞こえた。  「ワンッ!」  「わっ!び、びっくりした……ってなんだ、犬か……」  声のした方へ顔を向けると、一匹の柴犬がどこで拾ってきたのか分からない (多分、幼児の忘れ物) ボールを足元に転がして、遊んでくれ、とばかりにこっちを見ていた。  野良犬か?まぁどっちにしても暇を持て余していたところだ。こっちにおいで、と手招きすると犬はすぐさま駆け寄ってきた。  「よーしよしよしよしよし」  毛並みのいい柴犬特有のモフモフ、それでいてたまにちくっとする毛を堪能していると、そいつはブンブンしっぽを振った。可愛いやつじゃないか。僕の家のマンションは動物禁止だから無理だけど、いつかペットを飼えるようになったら、断然猫より犬派だ。一緒に外に出掛けたりしてさ、なんか相棒っぽいじゃん、そういうの。僕は憧れる。猫も猫で魅力があるけどね。  「あれ、お前……」  僕が首筋をわしゃわしゃ撫でると、何かに当たった気がして、毛の中にあるそれを見つけた。赤くて細い首輪だった。ごめんな、と謝り、首輪の内側を見ると「ハル ♀」、そしてその先には電話番号と住所と思しき個人情報がかかれていた。  「お前も、飼い主から逃げてきたのか?」  ハルに聞いてみるものの、答えが返ってくるわけもなく。ただの迷子犬なだけかもしれないが、万が一、何かがあって飼い主の元から逃げてきたのかもしれない。自分の状況に重ね合わせてしまい、少しの間、逡巡してから、僕は立ち上がった。  「ハル、ボールで遊ぼう!」  「ワンッ!」  まぁ連絡は後でもいい。とりあえず、今は二人で遊んで時間を潰すことにしよう。
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