二人のハル

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 キキーッ!  錆びついたブレーキの音が辺りに響いた。  「今日はここでいっか」  視線の先には大きめの池とそれを取り囲む遊歩道。奥にはチラホラと遊具の影も見えていた。  僕は自転車を降りると駐輪場を探して公園の敷地内に足を踏み入れた。  爽やかな秋晴れの木曜日。午後2時30分。学ラン姿の中学生がうろつくにしては早すぎる時間帯だ。  だが、ここは大都会・東京。他人に興味を向けない冷たい都市。誰かに手を差し伸べる余裕のない街。だから、多分、通報なんてされない。そもそも学校からも距離があるし。よくある量産型学ランを見分けられる制服フェチの人間がいなければここは安全圏である。  どうしてこんな時間に自分はここにいるのか。  別に、大した理由はない。ただ、逃げてきただけだ。具体的には英語のペアワークと体育のバスケ。とにもかくにも5限と6限が嫌だった。だから5限が始まる少し前に腹痛を訴えて、保健室に駆け込み、事情をよく知る保健室の先生にさっさと早退の許可をもらって脱走した。以上、簡潔な経緯説明おわり。  今から午後6時くらい、つまりは家に帰るまでの間、この寂れた、それでいてそれなりに広いこの公園で時間を潰さなければならない。  自転車に鍵をかけて、少しふらついてみると池を見下ろせる場所にポツンと東屋が立っていた。柱に近寄って見ると、ところどころ緑色の苔が生えているがしばらくぼーっとするには申し分のない椅子と机がある。ちょっとの時間占領したところで文句は言われまい。  僕は通学鞄を椅子の上に放り投げた。
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