相関図

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世の中に正義の味方なんていない。 水谷啓は高卒で警察官になったが、普段の仕事はテレビドラマで見たものとは違う、地味で面白みのないものだった。 大学卒でいきなり自分の上司になった本店からやってきた年下の上司。 スタートラインから違うキャリア組。組織の理不尽さに嫌気がさして警察官を辞めた。 仕事を辞めて金に窮していた頃、辞める原因になった元上司から変わった仕事を依頼される。 ふたつ下の山本純の話を受けることにしたのは単純に金欠だったからで、その頃には正義感など微塵も残っていなかった。 「センパイ若いのに再就職に苦戦してるんでしょ?これが出来たら報酬は100万くらいでどうです?」 金持ちのボンボンが、と心の中で毒づくも、家賃を払うのも難しくなった水谷はエサに飛びついた。 山本と直接会うことはなく、LINEでやりとりしているのが気が楽で、仕事の重さも非現実的に感じる。 『ダークウェブを摘発するために何でもいいから証拠をつかめ』 見つからなかったら自分を囮にして事件を作ってこい。 現役では出来ないおとり捜査、元警察官にはうってつけの案件だった。 サイトの様相はどんどん変わっていくが、闇サイトにアクセスするにはネットの底に深く潜り込む必要性がある。 薄暗いアパートの部屋でスマホとパソコンを使ってターゲットを絞っていくとふたつのサイトにヒットした。 黒に赤の色彩がまぶしい『ひぐらし屋』。 サイト運営者は女性で、代表南春香と記載されているが多分偽名だろう。 もうひとつは便利屋を装っているのか、見た目は普通の代行業に見える『ブレッドシリアル』。 ここは謎の求人募集をしていた。 元上司の山本によれば、ブレッドシリアルのほうが有名で犯罪率も高いという。 そこまで掴んでいて逮捕できない無能さを笑い飛ばしたかったが、これを自分に調査させて、手柄は山本のもの。 仕事を辞める決定打になった元上司を出世させるために手を貸すのは嫌だったが、目の前の金は垂涎の的だった。 今日の金にも困っている状態でプライドもくそもない。 求人募集をしている所のほうが忍び込みやすいと思って、記載されていたLINEのIDに連絡して、とりあえず2日風呂に入っていない自分の頭をグシャグシャと乱しながらシャワーを浴びに椅子から立ち上がった。 全身を洗ってさっぱりして新しい部屋着に着替えて改めてスマホ画面を見ると返信が来ている。 犯罪者なのに仕事が早い。公務員の仕事の遅さが当たり前に感じていた水谷には新鮮に感じた。 簡単なプロフィールと顔写真を送ってほしいという返信に、何の疑いもなく従って送信すると、すぐに返信が来た。 『相手が誰かわからないのに簡単に個人情報を送ってくる人間にこの仕事は難しいと思います』 ぐうの音も出ない真っ当な返信が来て拍子抜けする。 ここは駄目だと切り替えて「ひぐらし屋」に仕事依頼としてアクセスしようとした時にまた返信が来た。 『こちらも人手不足だし、これも何かの縁。一度会いませんか?』 一応接触には成功した。
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