41人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
今の状況が把握出来ない。
抵抗している男の腰に手をまわして逃げられないように抱きながら、コートの男は水谷の視線を楽しんでいた。
「本気で仕事する気があるのならその話をしますよ」
ようやく唇を解放された男が酸素を吸い込むため大きく息をしている。
ネットに絡まって動けない水谷には、男の独白を聞くしかなかった。
「簡単です。うち以外のサイトを潰す。それだけです」
コートの男は力の抜けた綺麗な顔の男を見せつけるように、背中から手をまわして抱きしめている。
「必殺仕事人はうちだけでけっこう。関わりたくなかったらこれまでということで。それでいかがですか?」
コート姿の男の指が抱きしめている男の体を自在にうごめいている。
「ぁぁ…」
話に甘い声が重なって話が全然入ってこない。
「返事はよく考えてもらってからでいいです」
「ぁ…ん…‥」
「ウチとしては警察内部の情報が欲しいですけどね」
力の抜けた男を支えながら刺激は止めないで淡々と話を続ける。
「あんたの職場、セクハラ有り?」
愛撫から逃げ切れない男の後ろで、人当たりのいい笑顔を浮かべてコートの男が立っている。
「これは同意のもとだからセクハラじゃないでしょ」
会話の合間に甘い吐息が続く。
「前向きに考えるから、このネットを外してくれないか」
「了解です。何か刃物を」
コートの男が周囲を見渡す。工場だからネットを切るハサミくらいあるかと思ったがなさそうな様子で、少し移動している。
その間も抱きしめた男は解放されず、絶えずどこかを触られて小さな悲鳴を漏らしていた。
「ここにはないな。真琴、ナイフ」
唐突にスカートのような服の中に腕を入れてナイフを取り出した。
ふわりとした服装は武装を隠すためだったのを今さら知る。
「切ってあげて」
彼にナイフを渡して水谷のほうに軽くうながす。
おぼつかない足取りで近づいてきて倒れ込むように座った。
粉塵が舞い上がる中、惚けた表情とは真逆の、慣れた手つきでナイフで縄を切っていく姿は民間人の所作には見えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!