相関図

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折りたたむことも出来る中型のナイフで器用にネットを切り裂いていく。 男がひとり抜け出せる程度になると、音もなく立ち上がって刃先を水谷に向けながら離れていった。 「はい、そこまで」 突然第三者の声がした。 声のほうに目を向けると、デジカメ片手に警察手帳をかざしている山本純の姿があった。 「一部始終撮影させてもらったよ。手を上げてこちらに来い」 「俺たち何かしました?お巡りサン」 両手を軽く挙げてコート姿の男が軽快な口調で言う。 「今の所わいせつ罪かな」 「ギリ室内でしょう、無罪」 「まあ話は署で聞くよブレッドシリアル管理人」 「何だ、知ってて囮に使うなんて彼かわいそすぎじゃないですか?」 コートの男がちらりと水谷を見る。 山本のやり方に腹を立てる前に、水谷はこの空間に違和感を感じた。 「…」 あの男の姿がない。 水谷が声を上げる前に、あの男が背後にまわって山本の首に腕を絡めていた。 「やめろっ!」 その声は聞こえているはずなのに何の躊躇もなく一瞬で山本を落とした。 山本は膝から崩れて、前に倒れる。 コート姿の男はカメラを拾って、山本を倒した男の手を取って素早く立ち去った。 「山本さん!」 我に返って近づく。 首の骨を折られたかと思ったが柔道の技をかけられただけのようだった。 すぐに意識を回復した山本が苦しそうに咳き込む。 「すいません…。もう少し人数連れてくることができれば…」 「無理するな。お客さん扱いのあんたはお飾りなんだから署の連中を動かす力はない」 山本はふらつきながら立ち上がり埃を払う。 「ブレッドシリアルの管理人のこと、知っていたのか?」 「証拠さえつかめば、後は逮捕するだけです」 あのふたりが主軸に運営している重要人物だろうということは簡単に推測される。 「カメラもったいなかったな」 外気の寒さから気をまぎらわせようと他愛ない話をして、山本の腕を自分にまわして水谷がゆっくり立ち上がる。 いつの間にか夕暮れから完全な闇夜になっていた。 学生気分が抜けない警察ごっこのガキの脳で考えた事など、修羅場をくぐってきた大人には子どもの遊び以下にしか感じなかったのではないか。 そして志半ばで仕事を放り出した水谷の根性も、試す時間すらもったいなかったと今頃後悔しているような気がする。 間抜けな作戦だった。
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