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一度署に戻るという山本を支えながら駅に向かうと、いつもと違うざわつきで電車が遅延しているアナウンスが繰り返し流れていた。
混雑する中、元同僚たちが忙しく動く姿が見える。
「どうした?事故か?まさかテロじゃないよな」
冗談半分で言ってみたが同僚たちは複雑な表情をしていた。
もう一般人の水谷に詳しい内容を話すことはご法度だったが、隣の山本に話す体で状況を説明してくれた。
「今監視カメラの映像を確認しているんですが…」
どうも奥歯になにかはさまった言い方をする。
埃まみれの水谷と山本を客観的にどう理解していいのかわからない様子だが、独断で闇サイトの捜査をしている事を話すのはまずい。
「飛び込んだというか、その、今映像を確認していますが」
「何か変なのか」
水谷と山本の顔を交互に見比べて、覚悟したのか話しだした。
「人が多すぎてよく見えないのでもう少し精密度の高い画像検索にかけますが、誰かに押されて線路に落ちたような動きにしか見えないんです」
水谷の脳裏に闇サイトのページが浮かぶ。
『殺人代行』
その歌い文句。
「その時間は一緒にいましたよね」
ブレッドシリアルがふたりきりで構成されているとは思えないが、この事故はあの二人の仕業ではないということを言いたいのだろう。
疑わしいのはあとひとつ思いつく。
『ひぐらし屋』
完全殺人を請け負うサイト。
もちろん事故かもしれないし、単独犯の可能性もある。今追いかけているサイト関係者を全ての事件に結ぶのはよくない。
でも何かがひっかかるのは勘というやつか。
「仕事辞めなきゃよかったな…」
「分かり次第連絡しますのでセンパイは休んで下さい」
しおらしい態度で言ってくる山本に驚いたが顔には出さず、その言葉に甘えて帰ることにした。
「無理はするなよ」
挨拶代わりの何気ない言葉だったが、山本は表情をくずして笑っているように見えた。
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