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「ヒロキ、これでいいよね」
「うん! ぼく、これ好き」
ガラスコップに麦茶をそそぐと、仲良くぼりぼりとお菓子を食べる。
「けん兄ちゃんは、将来の夢、決まってるの?」
「そりゃあ、大手の会社に就職するんだよ」
ふうん、と。ヒロキは興味がなさげだ。むっとしてしまって、「ヒロキは?」と問いかける。
「ぼくはね……やっぱり、内緒」
「なんだよ。おれだけ言って、不公平だろ」
頭を手でぐりぐりしながら、「吐け、吐け」とじゃれあう。夕刻にさしかかって、ヒロキの母親が迎えに来るまで。そんな時間が大好きだった。
*
「はい、はい。では、そのように……」
スマホの通話を切る。空を見上げると、すっかり夜だ。息を吐き出せば、白く濁る。冬になったのだと、実感した。あれから十年、経過した。大手企業には就職出来ず、小さな会社が俺をひろってくれた。毎日、毎日、目が回るような忙しさだ。従業員が少なすぎるのである。
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