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いまの俺を知ったら、ヒロキはどう思うのだろうか。高学年にあがるにつれて、遊びに来なくなってしまったから疎遠だ。無意識にこぼれた涙をぬぐって、家の方角に足を向ける。
「けん兄ちゃん!」
ふりむくと、男が息を切らしていた。そうとう焦っていたのだろう。肩で息をしている。男が顔を上げた。ずいぶん印象が変わったが、おさないころの顔立ちが残っている。
「……ヒロキ?」
「はい」
中途採用で俺の会社に、転職してきたらしい。さまざまな感情が「ぶわっ」とあふれて、涙が頬をつたった。
「おまえ、急にうちに遊びに来なくなって、どうしたんだよ」
「すみません」
いやな顔一つせずに、ヒロキはやさしくなでてくれた。
「将来の夢について、聞いたときのことを覚えていますか」
「覚えているよ。おまえ、言わなかったじゃないか」
「いま言ってもいいですか」
真剣な表情に、涙がひっこんだ。
「あなたの側にいたいのです」
ぽかんとして立ち尽くし、目をまたたかせる。
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