本文

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 いまの俺を知ったら、ヒロキはどう思うのだろうか。高学年にあがるにつれて、遊びに来なくなってしまったから疎遠だ。無意識にこぼれた涙をぬぐって、家の方角に足を向ける。 「けん兄ちゃん!」  ふりむくと、男が息を切らしていた。そうとう焦っていたのだろう。肩で息をしている。男が顔を上げた。ずいぶん印象が変わったが、おさないころの顔立ちが残っている。 「……ヒロキ?」 「はい」  中途採用で俺の会社に、転職してきたらしい。さまざまな感情が「ぶわっ」とあふれて、涙が頬をつたった。 「おまえ、急にうちに遊びに来なくなって、どうしたんだよ」 「すみません」  いやな顔一つせずに、ヒロキはやさしくなでてくれた。 「将来の夢について、聞いたときのことを覚えていますか」 「覚えているよ。おまえ、言わなかったじゃないか」 「いま言ってもいいですか」  真剣な表情に、涙がひっこんだ。 「あなたの側にいたいのです」  ぽかんとして立ち尽くし、目をまたたかせる。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加