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「進藤先生、入りますね」
一言断ってから部屋に入ると、一人の男性が鬼気迫る様子でトーン作業をしていた。
……彼は、進藤馨先生。
私が編集をしている少女漫画誌『少女ホリック』の看板作家だ。
低迷していた『少女ホリック』を、大ヒット作『神様、お願い』で救ってくれた彼は……編集部にとっての正に『神様』なのである。
「お夜食買って来ましたので、置いておきますね」
「ん……」
進藤先生は私が居ることに今気づいたらしく、原稿用紙から顔を上げた。
デジタル全盛の昨今だけれど、進藤先生は未だアナログ原稿だ。しかもこだわりが強い先生なので、アシスタントも使っていない。
原稿の締め切りは明日早朝。なので会社の会議室で缶詰をして頂いているわけである。
「高梨さん、ありがとうございます」
進藤先生は申し訳なさげに言うと、ビニール袋の中身をガサガサと漁る。そして顔を綻ばせた。
「あ、僕このおにぎり好きなんです」
「良かった。前に差し入れた時、真っ先に食べてらしたんで買ってきたんです」
「嬉しいな。覚えててくれたんですか……」
そう言うと進藤先生は、頬を淡く染めながら私を見つめた。
……この『神様』は、どうやら私に気があるらしい。
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