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「毒?」
「ある意味では」
「死ぬの?」
「人間になるんだ。それを飲むと」
私はその言葉を聞いた一瞬、嬉しそうな顔をしてしまったのではないだろうか。でも直後、何も変わらないことに気づいた。
「じゃあ、これ飲んだら、好きになった人に会いにいけるね」結局彼は行ってしまう。
「……記憶がなくなるんだ」
「え?」
「天使だったときに抱いた思い、考えていたこと、すべて忘れてしまう。今こうして君と話していることも、忘れてしまうんだ」
「……ああ、そうなんだ」
「僕は忘れたくない」
彼の声に、そのまなざしに、思いの強さが表れていた。私は嫉妬した。憎みさえした。彼の堕天の原因をつくったという、その人間の女に。
「どうして、その人のこと好きになったの?」
「ずっと見ていたんだ。その人が傷つき壊れてしまわないように、見守る責任があった。そういう役目だから」
「……守護天使」
「そう。でも、巧くできなかった。守れなかった」
「死んじゃったの?」
「いいや、まだだ。でも、人生を憎んでいる」
「あんまり、『愛欲の心』とは関係のない話のように聞こえるけれど」
「わからないか?」
彼はまともに私の顔を覗き込んだ。感情を漏らすときには、いつでも顔をそむける人だった。だからそんなこと、初めてだったかもしれない。そして彼はこう言った。
「その人というのは、君のことだ」
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