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「若菜っ、こっち」
力強く明るい幼馴染の声が真横で弾んで、私は素直に安心した。
「あーちゃん」
「行くぞっ」
私の腕を掴んだまま、走行スピードをグンと上げる。背の低さからは想像もつかないほど、あーちゃんは足が速い。
その跳躍に合わせてグイングインと腕を引かれ、自然に私の足も回転数が上がる。浮遊感が心地良い。あーちゃんの群青色のランドセルが、やはりカタカタと上下に揺れているのを目の端に捉えながら、無心で走った。
私たちの自宅への坂道を登り始める手前で、あーちゃんはようやく足を止めた。
「もう、大丈夫か?」
尋ねながら私の顔を覗き込む。その表情が可愛らしさ満点だ。
「あーちゃん。ありがとね」
私の飾り気のない謝礼に、あーちゃんは無邪気に笑う。ニパっという音が聞こえてくるような素直な笑顔がやはり可愛らしい。
実のところ、あーちゃんには何一つオバケが見えていない。それでも、あーちゃんは、幼い頃からずっと私の傍で、私の言葉を信じ、私に寄り添い、私と一緒にオバケに対応してくれている。
ゆっくり坂を上りながら、あーちゃんが柔らかい視線を私に向けた。
「そう言えば、今日、伴田たちに話しかけられてたな」
私がクラスメイトと話すことなどほとんどない。そんな日常にあって、クラスでも明るく元気な伴田さんに話しかけられたことを、あーちゃんは自分のことのように喜んでいるようだった。
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