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あーちゃんの期待を裏切るようで申し訳なく、返答に困る。
「ぁあ…うん」
「どした? 楽しそうに話してると思ったけど」
途端に表情を強張らせるあーちゃんに、どう話すか迷いつつも慌てて口を開く。
「あっ、ううん、楽しく話したよ」
私が口調を変えても、あーちゃんは
「何を話したの?」
真面目な表情と尋問じみたセリフで私を逃さない。
「何だったかなぁ…何か、最近のこととか」
「何それ?」
明らかに納得していないあーちゃん。
「…ピアノの、こととか」
私は、幼稚園の時からピアノを習っている。最近ようやく有名なクラシック曲を発表会で弾けるようになり、『エリーゼのために』『ショパンのワルツ第6番(子犬のワルツ)』などのタイトルに父が喜んでいたことが誇らしかったりした。
…が、勿論、伴田さんとそんな話をしたわけではない。
あーちゃんも訝し気な顔だ。
「伴田とピアノの話?」
二つ上のお兄さんと習っている空手に夢中な伴田さんが加わっている会話で、音楽について話題に上がっているようなことはほとんどない。J-POPヒットチャート程度のものだ。
「…ピアノ教室で、私を見たって」
「伴田が?」
「いや、あの。前川君が」
「前川?」
「うん。同じ教室に通ってるらしくて。最近、私のレッスン時間の、次の時間に変わったんだって。それで」
「それで?」
「待っている間に聴こえてくる私のピアノが、すごく上手だったって、何か、すごく褒めてくれてたみたいで。それで、伴田さんが」
伴田さんの友達が、前川君を好きなのだろう。前川君の情報を得るためと、私が前川君に対して特別な気持ちを抱かないよう牽制するための会話だった、という印象だ。
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