落とし物

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「KIMETSU、レッスンでも弾く?」  冷たい目のまま、冷たい声であーちゃんが問う。気迫めいたものまで感じて、つい返事が辿々しくなってしまう。 「え、ううん…そういう曲は、自分で遊ぶだけだから…」 「そっか。じゃ、楽しみにしてる!」  あーちゃんの笑顔は、もういつもの通りだった。鳳仙花の種が弾けるような無邪気な笑い方だ。  でも私の目は、捉えてしまった。  そのあーちゃんの体から不意に転がり落ちた、黒い小さな埃のようなモノを。  そしてソレが、か細い短い足をニョキっと生やして地面に立ち、小さな体に2つ付いた小さな目で、ゆっくり私を睨んだことを。  その黒い小さなものは、その後もちょくちょくあーちゃんから零れ落ちた。それがオバケの類であろうことは、容易に想像できる。  オバケが人から発生するところは、今まで何度も見てきた。むしろ、結構な頻度で生まれる。だから私は、オバケは人から生まれる存在なのだろうとごく自然に認識していた。  人の傍にいないオバケは、人から生まれた後、離れて置き去りになったものだろうとも想定していた。  そして、『オバケは、人のマイナス感情から生まれる』というのが私の所見であり、更に言えば、『初めから私を睨んでいるオバケは、私に対して憎悪などの攻撃的な感情を抱く人物から発生している』という感触が強い。  あーちゃんからオバケが発生し、そのオバケが私を睨んでいる、という事態は、私にとって受け入れ難いことだった。    *   *   *
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