落とし物

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 帰宅の道中、隣で歩くあーちゃんが珍しく黙っているなと思っていたら、 「今日、梨名先生に何言われた?」 唐突に厳しい口調で尋ねられた。  肩の感触を思い出してまたゾワリとしつつ、しかし梨名先生自身がどうということはない。 「梨名先生…放課後残れって。話があるって」 「…で?」  続きを促してくるあーちゃんの、迷いのない表情に戸惑う。続きの話題など私は持ち合わせていない。 「それだけだよ?」 「…先生、変な態度じゃなかった?」  あーちゃんは、既に答えを得ている様子だ。私の口からその答えを言わせたいのだろう。  しかし、一体私に何を言わせたいのか。 「態度…そうだね。変、かな」  変と言えば変だが、あの先生は(アレ)がスタンダードだ。“変な箇所”を一つ一つ整理して言葉にするのは難しい。  そして、“変な態度”という言葉の意味するところが“彼にとっての異常(非日常)”ということであるならば、 「でもそれって、いつも通りだよね」  こう答える他ない。 「…梨名先生と、2人きりにならない方が良い」 「え?」  意味するところがわからなくて、返事がうまくできない。しばらくしてようやく理解はしたが、それでも納得には至らない。 「そんな、そういうんじゃ…それに、放課後話することに」 「俺も一緒に行く」 「え。それ、良いのかな」 「ダメな理由、ないだろ」 「…そっか」 「オバケが出たんだろ」 「え…なんで」 「前川から(状況を)聞いた」  あーちゃんの察しの良さにビックリだ。  しかし、ビックリはそれに留まらなかった。 「若菜、俺から離れるな」 「っ」 「若菜。休憩中も、俺が傍にいる」 「あ」 「俺が若菜を守るから」  あーちゃんは真剣だった。  その、真剣に私を大切に思ってくれている様子のあーちゃんから、また、黒い埃の玉がコロリと落ちていた。  あえて目視はしない。それでも、埃の玉の視線がこちらに向かっていることを強く感じる。
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