3人が本棚に入れています
本棚に追加
帰宅の道中、隣で歩くあーちゃんが珍しく黙っているなと思っていたら、
「今日、梨名先生に何言われた?」
唐突に厳しい口調で尋ねられた。
肩の感触を思い出してまたゾワリとしつつ、しかし梨名先生自身がどうということはない。
「梨名先生…放課後残れって。話があるって」
「…で?」
続きを促してくるあーちゃんの、迷いのない表情に戸惑う。続きの話題など私は持ち合わせていない。
「それだけだよ?」
「…先生、変な態度じゃなかった?」
あーちゃんは、既に答えを得ている様子だ。私の口からその答えを言わせたいのだろう。
しかし、一体私に何を言わせたいのか。
「態度…そうだね。変、かな」
変と言えば変だが、あの先生は変がスタンダードだ。“変な箇所”を一つ一つ整理して言葉にするのは難しい。
そして、“変な態度”という言葉の意味するところが“彼にとっての異常(非日常)”ということであるならば、
「でもそれって、いつも通りだよね」
こう答える他ない。
「…梨名先生と、2人きりにならない方が良い」
「え?」
意味するところがわからなくて、返事がうまくできない。しばらくしてようやく理解はしたが、それでも納得には至らない。
「そんな、そういうんじゃ…それに、放課後話することに」
「俺も一緒に行く」
「え。それ、良いのかな」
「ダメな理由、ないだろ」
「…そっか」
「オバケが出たんだろ」
「え…なんで」
「前川から(状況を)聞いた」
あーちゃんの察しの良さにビックリだ。
しかし、ビックリはそれに留まらなかった。
「若菜、俺から離れるな」
「っ」
「若菜。休憩中も、俺が傍にいる」
「あ」
「俺が若菜を守るから」
あーちゃんは真剣だった。
その、真剣に私を大切に思ってくれている様子のあーちゃんから、また、黒い埃の玉がコロリと落ちていた。
あえて目視はしない。それでも、埃の玉の視線がこちらに向かっていることを強く感じる。
最初のコメントを投稿しよう!