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私は、あーちゃんだけは私を嫌わないだなんて思っていたの?
…いや、だって今まで、喧嘩したってオバケなんか生まれなかった。
……そして私は、勝手に傷ついてしまった。
あーちゃん。本当は私を嫌いなのに、ニコニコ笑っていてくれたの?
あんなに無邪気な笑顔で?
あーちゃんが一生懸命私を守ってくれていたのは、本当は何のためだったの?
…そうだ。私は、私に寄り添ってくれていたあーちゃんが、内心では私を疎ましく思っていたという、あーちゃんの二面性に衝撃を受けていた。
いや、でも。
あーちゃんが私をどう思おうと、それはあーちゃんの自由だ。その“あーちゃんの気持ち”を私に押し付けることなく、一生懸命私を大切に扱ってくれていたことは、あーちゃんの優しさだ。
私への思い遣りに、私はなぜ傷付かねばならないのだ。
…そう自分に喝を入れても、ダメだった。
気持ちが悪いと主張して登校を拒絶した。
初日に心配してくれた両親は2日目には訝しんだが、3日目には何も言わなくなった。学校から電話があるようだけれど、母親はそれについて話題にしなかった。
5日目に、梨花さんが私の部屋に来た。あーちゃんのお母さんだが、物心つく前から可愛がってくれる、私にとってお姉さんのような存在だ。
梨花さんが私を見てニパッと笑った。花が咲くようなあーちゃんの笑顔にそっくりで、つい、最後に見たあーちゃんの悲しそうな顔を思い出してしまう。
胸が詰まった。
…そうだ。傷ついたのは私ではない。あーちゃんだ。そんな事実も突き付けられて、また更に苦しくなる。
梨花さんはやはり笑顔だった。
「若菜ちゃん、頭ボサボサぁ。可愛くしてあげるねぇ」
ここに座って、と部屋の真ん中に促される。
素直に体育座りした私の背後に回った梨花さんは、自分の鞄からブラシを取り出し、私の髪を丁寧にとかしはじめた。
サイドは編み込もうねぇ
後ろはおろしてぇ、毛先にコテを当てよぅ
このクリーム、すごく艶が出るのぉ
良い香りするでしょぉ?
そんなことを呟くように話しながら、その同じ調子で、
「若菜ちゃん、中学受験しない?」
梨花さんは何気ない調子で提案した。
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