第1章 第1話

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第1章 第1話

どこにでもある昼下がりの公園で、俺はベンチに腰かけたままイライラと待っていた。 完璧にけだるい午後3時。 約束の時間を2時間も過ぎている。 都会の谷間に埋もれる普通の小さな三角公園で、暇を持てあましたサラリーマンはベンチに寝そべり、人を恐れたこともない鳩は退屈そうに俺を見上げる。 「くそっ」 ガツンと地面を蹴飛ばした。 理学部数学科大学院博士課程を修了してからはや2年、俺はあらゆる試練に耐え、今こうしてここに座っているのだ。 そう簡単にあきらめるわけにはいかない。 巻き上げられた小石に驚いた鳩たちは、飛び上がって俺との距離を取り直す。 そんなことをしたって、どうせまた近寄ってきて、俺をバカにするんだ。 ここでなにやってんだ、役立たずめ。 餌をくれないんなら、どっか行けよ。 そんなことを、もう何度もくり返していた。 「なんだ兄ちゃん、暇してんのか」 俺の座るベンチの横に、一人の小汚いおっさんが腰掛けた。 手には使い回したような小さな紙バッグを持っている。 季節外れの分厚いコートの前を広げ、股を開き仰々しくもふてぶてしいその態度は、ますます俺をイラつかせた。 「ニートってやつか? 社会のゴミだな」 こういう手合いは、相手にしないに限る。 「なんだ、言い返しも出来ないのか? やっぱダメな奴はなにやらしてもダメだな」 そう言ってせせら笑うおっさんに、俺は聞こえるようワザと大きなため息をついてやった。 三月の空は薄汚れたかすれ雲をいつまでも抱きかかえている。
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