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大学を後にして、アパートへの道をたどっている最中も、まだ心臓がばくばくとなっていた。絶対に見られてはいけないものを見られてしまった。玲奈はあの運転免許証を見て、どう思ったのだろうか?うまく誤魔化せていたとは到底思えない。
これから先、どうすればいいのか全く分からなかった。
今はただ、家で休みたい。そう思って、とぼとぼと歩く。
アパートまでたどり着き、玄関のドアを閉めようとした瞬間、腕に大きな抵抗を感じる。ドアの端に、誰かの指がかかっていて閉めるのを邪魔していた。
「よう」
その指の正体は昨日出会ったあの男だった。男はドアの隙間から体をねじ込もうとしている。
「やめろ、出ていけ」
僕は必死になって男を押し戻そうとする。
「話があるんだ。入れろよ」男は言った。
僕はもちろん無視して、男に抵抗する。お互いの力はほとんど同じで、しばらくの間お試合が続く。
「やめてくれ。警察を呼ぶぞ」僕はできるだけすごんだ声で言った。
それを聞いた瞬間、男は笑い出した。
「いいよ。呼べよ。ただ、警察を呼ばれて困るのはお前だろ?」
それを聞いた瞬間、僕の心を絶望の波が襲った。僕の不吉な予感は間違っていなかった。やはり、この男はあいつだ。
一瞬力が抜ける。
その隙を男は見逃さなかった。
押し合いの均衡は崩れ、僕を弾き飛ばす形で男が部屋に上がり込んだ。僕はよろめきしりもちをつく。
「手間かけさせるなよ。お前は俺の言うことを聞くしかないんだから」男は僕を見下ろしながら言った。
勝手に部屋に上がり込み、僕のベッドに腰を下ろす。
だめだ。もう逃げられない。
「なぜ、俺になりすましている?」男は腕を組みながら尋ねる。
もう完全にばれているようだ。言い逃れはできそうもない。
僕は腹をくくって、あの日の話を始めた。
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