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僕の本名は矢野健吾といった。
小さいころから勉強ばかりしていたので、テストの得点には自信があり、当然のようにN大学を志望した。しかし、結果は不合格。
滑り止めに受けていたほかの大学は受かっていたが、そこへ通うのは僕のプライドが許さなかった。勉強だけで人から認められていた僕が、勉強すらできないと思われるのは耐えられなかったのだ。
そこで僕は浪人という選択肢をとることにした。たまたま、本番で不調だっただけで、実力を出せれば絶対に受かる——。そう信じて打ち込んできた日々だったが、結果はまたも不合格だった。その年は自分を追い込むために、滑り止めの大学すら受けていなかった。働く覚悟もない僕は自動的に二年目の浪人をすることになった。予備校も通学から付属の寮に変え、より一層勉強するつもりだった。
しかし、二度も失敗した僕にもう頑張る気力は残っていなかった。予備校の授業をさぼり、ゲームセンターで時間をつぶすといった毎日を過ごしていると、気づいた頃にはセミが鳴く季節になっていた。
そんなとき、あるものを拾った。
僕の志望校の学生証だった。
これを手に入れるために、頑張っていたのに——。
きっともう、ここに僕の顔写真が載ることなんてないのだろう。
そう思うと、むなしさで息が詰まりそうだった。
気晴らし。
ほんの気晴らしのつもりで、僕はその学生証をポケットに入れて、N大学へ入った。警備員につかまらないかと肝を冷やしたが、案外すんなりと入ることができた。建物にはセキュリティがかかっていたが、学生証をかざせばドアは開いた。
適当な空き教室にふらりと入って授業を受けてみて愕然とした。
学生たちは全員席の後ろの方に座って、授業中だというのに喋るか、スマホをいじるかしかしていなかった。
こんなにやる気がない奴らが受かって、なぜ僕が入れないんだ——。
その日の夜、拾った学生証を眺めながらずっと考えていた。
この落とし主も、あんなやつらと一緒なのではないだろうか。
それなら、僕が活用したほうがいい——。
あとは、ご想像のとおりだ。
僕は矢野健吾としてではなく、篠塚雄介として大学で生活していた。楽しかったよ。そして、お前が現れた。
お前は、あの学生証の持ち主、篠塚雄介なんだろう?
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