強く 抱きしめて 1

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強く 抱きしめて 1

* 剛さんと一緒に暮らし始めてから、2年が経とうとしていた。 ボクは大学4年生になっていて、もうすぐ卒業を迎える。今は真冬の2月で冬季休暇の真っ最中。 残すは3月の卒業式のみの状態だった。 こんな風にきちんと卒業できるなんて思っていなかった。 全てに絶望して、自暴自棄(じぼうじき)になって死ぬつもりだったのに、剛さんがボクの世界を全て塗(ぬ)り替えてくれた。 最低最悪な生きる価値もない世界が、とても愛おしくて大切な世界に変えてくれた。 一緒にいてくれるようになって、心が満たされて淋(さび)しさが、嘘みたいに消えて。 それからは周りの人にも優しくできるようになって、少しだけど友達もできた。 ボクにとっては友達ができるなんて、夢みたいなことで。剛さんは本当に色んな意味でボクの世界を変えてくれた人。 世界で一番大切な人。 剛さんは相変わらず交番勤務で研修を続けていた。町で困っている人の役に立てるのが嬉しいと笑って、楽しそうに毎日出勤している。 しかもびっくりしたのは、一生懸命働いてもらったお給料を、通帳ごとボクに渡してくれた事だ。 こんなの貰(もら)えないって言っても、剛さんは譲らなくて。 一緒に住んでるマンションはボクの両親が購入したものだし、それに仕事が趣味みたいな人だから特に使い道もないから、ボクに管理して欲しいって言われた。 食費や光熱費の必要経費は剛さんのお給料から出して、剛さんのお小遣いとして月3万円を渡している。 そんな少額で足りるのか不安だったけど、剛さんは全然大丈夫そうで催促することもない。 ボクも剛さんが働いて稼いでくれたお給料だから、無駄遣(むだづか)いできず、なるべく節約して家計をやりくりしていたので、家賃がかからない分、お金はそんなに使わずに済ませている。 それにボーナスも同じ口座に振り込まれるから、浪費癖のない剛さんの口座は、どんどんお金が溜まっている。 いつか車を買いたいとか言った時、全部現金で払えるくらい貯まりそうな勢いだった。 両親からの生活費はボクの口座に振り込まれているから、本当はこっちから生活費を出そうと思ったんだけど、それは剛さんにものすごく嫌がられた。 それをされたら二人とも両親に養われている感じになるから、ちゃんと自分の給料で生活がしたいと頑(かたく)なに言われたので、ボクの口座は振り込まれるだけで、引出されるのはマンションの毎月の積立金だけという、ほぼ凍結状態になっていた。 剛さんのそういう強い倫理観も好きだった。 警察官のお父さんに育てられたんだなって、すごいなって素直に尊敬している。
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