強く 抱きしめて 20

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強く 抱きしめて 20

今回剛さんは都心に建つ名の知れたホテルを予約してくれた。広い部屋に、キングサイズの大きなベット、テーブルとソファも完備されており、絨毯(じゅうたん)もふかふかで、あつらえられている家具もちょっとした小物も瀟洒(しょうしゃ)でハイセンスなものばかり。 ウリをしていた時でもこんな高級ホテルに来たことはなかった。 一泊いくらするのか・・・ボクにはわからない世界だった。 二人はこの程度のホテルは見飽きているのか、興味なさげに素通りして、真っ直ぐにボクのいる窓際のソファまで歩いてきた。 お母さんはボクを一瞥(いちべつ)して、ふと・・・微笑んでから、ゆっくりと着ていた春物の黒いロングコートを脱いだ。 剛さんがそのコートを受け取ろうと近づこうとすると、お父さんが無言で剛さんを制して、自然な仕草でお母さんからコートを受け取る。 「ありがとう」 お母さんはとても自然にお父さんにそう言って、脱いだコートを預ける。お父さんは無言でコートを受け取って、その腕にかける。 とても自然なそのやり取りが、なんだか映画のワンシーンのように、洗練されていた。 お父さんは自らコートをクローゼットにかけに行き、そのまま自分のコートもかけてから戻ってきた。 お母さんはこれから撮影でもあるのか、コートの下も黒くて光沢のあるロングの長袖(ながそで)のワンピースを着ている。深いスリットの入っている隙間(すきま)から白くて形の良い脚が見えている。 お母さんがボクの向かいのソファに腰掛けると、いつものようにスーツを着込んだお父さんが隣に座り、二人は無言で目を合わせることはしなかった。 そんな二人を見ながら剛さんはボクの隣に座る。ボクも慌ててソファに座り直す。 ボクとお母さんが向かい合って、剛さんとお父さんが向かい合う形になる。 今日は検査結果を見てもらうために来てもらった。ボクのために剛さんが全部手配してくれたんだから、だから。 ここはボクがちゃんと話さないと、ダメだ・・・!! ボクは思い切って顔を上げると、お父さんとお母さんを交互に見ながら話しかけた。 「あの・・・!今日は、ありがとうございます・・・忙しいのに、来てくれて・・・それで、前にお願いした鑑定結果が・・・届いたので、届きました。だから、一緒に見て欲しいと思って・・・ごめんなさい・・・」 剛さんは、自分が話そうと思っていたようで、ボクが話し始めたら少しびっくりしつつも、ボクに任せてくれた。 お母さんは辿々(たどたど)しくも話しているボクを、優しく微笑みながら見てくれた。お父さんは・・・変わらずそっぽ向いたままだったけど。 テーブルに置かれた大きい封筒。 恐くて開けられなくて、未開封のまま持ってきた封筒。 意を決して、ボクは封筒に手を伸ばす。この中に、これまでの疑惑の答えが入っている。 いっぱい喧嘩して、いっぱい泣いて、いっぱい憎んだ、あの元凶の答えがここにある。 答えを知りたい・・・でも知りたくない・・・恐い・・・泣き出して叫びだしたいくらい、恐い・・・。 ゆっくりと、震える手を伸ばして、封筒に触れる寸前。 お父さんの大きな手が、封筒を攫(さら)っていた。
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