強く 抱きしめて 21

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強く 抱きしめて 21

びっくりして顔を上げると、お父さんは無表情のまま封筒を持ったまま立ち上がって、鏡台のほうへ歩いて行き、ホテルの備え付けのペーパーナイフを取り出す。 ボクも剛さんも呆然(ぼうぜん)として見つめる中、お父さんは封筒を開封すると、中の文書を取り出して一瞥(いちべつ)する。 眉一つ動かさない、一重の切れ長の瞳(め)にも何の感情も浮かべないままお父さんは戻ってくると、テーブルの上に書面を放り投げた。 「ああ・・・やっぱり」 剛さんが嬉しそうに呟(つぶや)く。 『父権肯定確立は99.99999999994%であります』 そんな文字が見えた。 え・・・本当に?本当に・・・? 驚きと、嬉しさと、喜びと、色んな感情が入り混じって、恐る恐る顔を上げると、お母さんはその美貌(びぼう)を歪めて目に涙を溜めていた。 お父さんは、気まずそうに口唇を噛み締めて、視線を泳がせていた。 ずっと・・・ずっと・・・そうだったら良いなって思っていた・・・。 お父さんとお母さんの、子供でいたいなって・・・思っていた。 でも確認するのが恐くて、恐くて、誰も踏み出せなかった。 剛さんがその勇気をくれた。 剛さんが、その大きな一歩を踏み出してくれて。 ボクがお父さんとお母さんの子供だと、証明された。 嬉しいのと、喜んでるのと、怒りと哀しみと、色んな感情が入り乱れて、どんな表情をしたらいいのか、どんな反応をしたらいいのか、さっぱりわからない・・・。 それでも、涙だけは、溢れてきた。 テーブルに広げられた書面を見ながら、その文字を見ながら、ただただ涙がこぼれていた。 そんなボクの頭に、ふいに、暖かい手が乗せられて、ゆっくりと髪を撫ぜられた。何度も、何度も。 驚いて見上げると、向かいに座ったお母さんが、同じように綺麗な涙を流しながら、優しい笑みを浮かべて。 そっと、何度も撫ぜてくれていた。 小さい頃、まだ子供だった時に、感じた温もりだった。 大好きな、お母さんの手だった。 「ふぇ・・・うぇっ・・・お母・・・お母さ・・・」 『お母さん』なんて言ったの、何時ぶりだろうか。 全然思い出せない。 こんな風に、二人の前で泣くなんて、何年ぶりだろうか。 ちゃんと素直に感情を晒(さら)け出すのなんて、久しぶりすぎて。 自分の中で、感情が暴れ回っていて、収集がつかない。 こんな感覚に陥るのが久しぶりすぎて、混乱していた。 お母さんは混乱しているボクの頭を、ずっとずっと撫ぜてくれていて。剛さんもそっと背中を撫ぜてくれている。 嗚咽(おえつ)を止められないボクの耳に、お父さんの声が響いた。 「すまなかった・・・」 いつもの威圧的な声ではなく、慈愛に満ちた落ち着いた大人の男の人の、低くて耳に心地よい声だった。
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