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強く 抱きしめて 22
ボクもお母さんも剛さんも、みんながびっくりして、お父さんに注目した。
お父さんはものすんごく気まずそうに顔を歪めながらも、ボクとお母さんの顔をしっかりと見た後に、膝に手をついて頭を下げた。
「本当にすまなかった。・・・千都星が、オレの子供じゃないと思い込んで、いっぱい酷いことをした。もっと早くにはっきりさせれば良かったのに・・・恐くてできなかった。本当にすまない・・・いっぱい辛い思いをさせてしまって・・・申し訳ない」
ひたすら頭を下げ続けているお父さんは、素直に格好いいと思えて、ちゃんと謝ってくれて優しくて温かくて、大きいお父さんのままだと思った。
同時にお父さんに『千都星』と名前で呼んでもらえたのが、数年ぶりだった。
『お前』でもなく「おい』でもなく、『千都星』と呼んでくれた。
ああ・・・そうです。
ボクは、ボクの名前『千都星』なんです。
貴方達が付けてくれた名前です。
呼んで。もっと、もっと、ボクの名前を呼んで下さい。
今まで呼んでもらえなかった分、いっぱい、いっぱい、呼んで。
「お・・父さん・・・もういい・・・もういいから・・」
やっと、『お父さん』と言えます。
「千都星、本当にすまなかった」
やっと、『千都星』と呼んでもらえる。
「もういいんです、本当に。だから謝らないで、お父さん」
お父さんが恐る恐る顔を上げる。
気まずそうな表情はそのままで、ボクを見た後に、隣に座るお母さんの手を、ぎゅっと握り締めた。
お母さんもずっと泣きっぱなしで、お父さんに手を握られて、真っ正面から向き合ってお互いを見つめ合っていた。
その二人の瞳が、輝いていて、まるで初恋の人を見るような瞳で、きらきらと輝いていた。ボクはそんな二人に言う。
「お父さん、お母さん・・・産んでくれて、ありがとうございます。育ててくれて、ありがとうございます。・・・おかげで剛さんと出会えました。本当に好きな人に出会えました。・・・ありがとうございます」
ずっと、言いたかった。
剛さんとまた一緒にいられるようになって。
大学通って、ご飯食べて、勉強して、ぐっすり眠れて、そんな当たり前の普通の生活を過ごせるようになって。
本当は、ずっと、ずっと言いたかった。
「ボクは・・・お父さんもお母さんも・・・大好きなんです・・・」
*
親子鑑定を受けてから3ヶ月が経っていた。
あれからボクはお母さんと頻繁(ひんぱん)に連絡を取るようになっていた。
お父さんとはたまにしか連絡しないけれども、あれ以来二人がまたお付き合いを始めたとのことで、お母さん経由でお父さんの話しは聞いていた。
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