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一夜の始まり
この子と初めて会ったのは、五年前。
ハロウィンの日の午後六時だった。
―――――
少し町はずれにある、誰も来ないような家に私は住んでいる。
ハロウィンは私たちにとって特別で何にも代えられないもので、その日にいつも独りというのは寂しい。
その時に少しでも寂しさを和らげようと、お菓子をつくろうと思った。
お手軽にできるクッキーやプリン。少し手の込むケーキやタルト。すきなお菓子をたくさん作っていく。
お菓子作りは楽して、すぐに寂しさは忘れられた。
楽しくて楽しくて、創りすぎてしまう。
気が付いたときには、大きな机が埋まってしまうくらいの量になっていた。
こんなに作ってしまって、どうしたらいいんだろう。
食べきることはできないし、でも捨てるのももったいない。
そう思っていた時……家の扉が、小さくたたかれたのだ。
誰だろう、と思いながらも扉を開けた。
きっと何かの宣伝か何かだろうと思いながら。
しかし、扉を開けた先にはちいさな男の子ひとり。
手には籠が掛けられており、頭には魔女のような帽子がかぶられている。
「ぼうや、どうしたんだい?」
優しく声を掛ける。私の顔を見ると怖がってしまう子供がほとんどなので、少しでも恐怖心を与えないようにと。
どれだけ優しく声を掛けようが怖がられてしまうし、中にはトラウマを与えてしまう子もいる。でも私はこの顔をどうにかすることはできない。
この子にも、怖がられてしまうかもしれない。
そう思いながら次の言葉を待つ。
すると男の子は口を開いて、
「おじさん、その被り物すっごく素敵だね! トリックオアトリート!」
今まで見たことのない、素敵な笑顔だった。
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