一夜の始まり

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トリックオアトリートと言われても、最初はどうして言われているのか分からなかった。 けれど毎年この日には、村をあげてのハロウィンをするらしいことを思いだした。 なんせ他の人たちとは関わらないし、子供達も怖がって近づきやしない。 すっかりそんなことをしているというのを忘れてしまっていた。 ……お菓子あるかなぁ。そんなことを思ったけれど、そういえばさっき腐るほど作ったんだということに気が付く。 「わかったよ、君。私のうちの中にはたくさんお菓子があるから、好きなものを好きなだけ持っていくといい。あと……この顔を素敵だと言ってくれてものすごく嬉しいよ」 そう言うと少年は嬉しそうに私の家の中へ入って、これ貰っていいの?とはしゃぎながら聞いてくる。 ものすごく、ものすごく久しぶりだ。人間と、ましてや子供と関わる、言葉を交わすなんて本当にいつぶりだろうかというほど。何十年、もしかすると何百年と経つかもしれない。 「なあ、君は今何歳なんだ? 名前は?」 「ぼく? んっとね、六歳! 小学一年生だよっ!」 「小学一年生か……それにしては随分大人びて見えてしまうよ。で、名前は?」 「名前はね、パパとママが他人に教えちゃいけませんよって! 歳は言われてないからだいじょーぶ!」 言われてないから大丈夫とは、本当に賢い子なんだなと思ってしまう。 しかし、名前が知ることができないのが残念だ。 優しく名前を呼んでみたいのに。それが私のやってみたいこと上位に君臨すること。人間の名前を、その本人に言ってみたいというものが。 この子なら、きっと受け入れてくれる。そう思って仕方がなかった。
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