森の底

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 彼女は、昨日出会ったばかりの赤の他人である。  兵士のように剣を佩いていた彼女は、メリーと名乗った。嘘かまことか、王女の従者なのだという。メリーは、ラトスが占い師の男と別れてすぐ、見計らったかのように声をかけてきた。そして、くずれ落ちるようにラトスに対してひざまずいてきたのだった。  メリーの身分の真偽は分からなかった。だが、声をかけてきた時の彼女は、ひどく憔悴していた。顔は暗く、目の光は消えていた。切羽詰まったように「自分も王女を探している」と説明する彼女は、少なくとも人をだますような者には見えなかった。  自分も探していると言ったからには、ラトスがエイスガラフ城で依頼を受けたことを知ってるのだ。城を出てからずっと後を付けていたのかと問うと、メリーは素直にうなずいた。  メリーが言うには、王女がいなくなるその瞬間まで一緒にいたのだという。  王女とメリーは、とある目的のため、ラトスと同様に占い師の男から助言を受けたのだと言った。二人は助言のままに城下街をでて、森に入ったらしい。  結果、森の中で王女は消え、メリーは一人取りのこされた。必死になってさんざん捜し回ったが、ついに消えた王女を見つけることはできなかったというのだ。  嘘を言っているようには思えない、とラトスは思った。だが、それ以上に信じられない話だとも思った。酔っぱらいの話を聞いているようだった。  暗くなった裏通りで、ラトスは少し悩んだふりをした。  その様子を見たメリーは、歯痒いような悔しいような顔をして、あわてはじめた。そのあわてようを見て、ラトスは彼女の言葉を信用した。駆け引きする余裕もないようだったからだ。ラトスは悩んだふりをやめ、ひざまずいているメリーの腕をつかみ、引きあげた。  ラトスはメリーの同行を認めた。  情報のひとつだと思えば、悪くはない。依頼を受けたばかりの身には、都合が良すぎる話だと思った程度だ。なにか罠があったとしても、それはそれ。うまく利用すればいい。大きく損をすることにはならないだろう。  二人は城下街で最低限の支度を済ませると、すぐに城壁をこえて外にでた。  占い師の男の簡単な説明だけで、ラトスはどこに行けばいいか大体の見当を付けていた。念のため、あえてメリーにもどこに向かえばいいかたずねてみた。すると彼女は少しびっくりしたようにラトスの顔をのぞき込んだが、すぐに森のほうを指差した。  メリーが指差した方角は、ラトスが検討を付けていた方角と大体あっていた。  これは良い拾い物かもしれない。ラトスは心の中でにやりとしたが、顔にはださなかった。
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