森の底

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 エイスから歩いて、三日目の夜。  深い森を歩くのにも飽きてきたころ、二人の行く先に、ちらちらと淡い光が木々の隙間から見えてきた。それは月に照らされた水面の光だった。  光を追うように、進む。革靴の底に、枝葉や土よりも固い感触が伝わった。ラトスは小さく息をつき、辺りを見回した。そこには、生いしげった森をくりぬくように、木も草も生えていない不思議な広場があった。広場の中心には、ぽつりと小さな沼があった。  ラトスは足を止め、もう一度辺りをうかがう。  鳥や獣の気配はあっても、人の気配はない。 「ここなのか?」  占い師の男を信じて合言葉を言うとすれば、どこか近くで、それを聞く者が近くにいるはずだ。だがこの辺りに、人が行き来している気配はない。潜んでいるような場所があるとも思えなかった。  ラトスはふり返り、いぶかしげにメリーの顔をのぞく。 「間違いありません」  メリーは目を見開いて、緊張した表情のままラトスにうなずいてみせた。それならば異を唱えまい。ラトスはメリーに、王女と共にここ来た時のことをくわしく話すように求めた。  メリーを信じるならば、彼女は王女の最後の目撃者なのだ。可能なかぎり、王女が消えた時と同じ条件を再現したいとラトスは考えていた。そのうえで、十分に警戒し、さらなる手掛かりを得るのが良いだろう。  ラトスの求めに応じて、メリーは静かにうなずく。小さな沼とその周囲を見ながら、そっと腰を下ろした。  地面をなで、メリーは小さく息を吐く。  彼女がなでる地面は、薄っすらと光っているようだった。月明かりに照らされて反射した光ではない。よく見ると、自ら輝いているのだと分かった。しかしその光はおそらく、夜の暗さが助けなければ分からないほどのものだ。 「これが不思議な砂粒というやつか」  ラトスの言葉にメリーはうなずく。地面の砂を少しつまみ、持ちあげてみせた。  彼女の手の中にある砂粒の光の強さは、様々だった。月の光が反射しているだけなのかどうかもわからないものもあったが、それがかえって、強めの光を放っている砂粒との差を歴然とさせていた。 「ここに来て、すぐにあの占い師の人が言う通りに、私たちは試してみました」  そう言いながら、メリーは沼のほとりを指差した。  彼女が指差した先には、光をはなっている石や砂は見当たらなかった。  あれ? と、メリーは首をかしげた。  彼女は、自らが指差した場所に近付いていく。両手で口元を隠しながら目を見開き、もう一度大きく首をかしげた。  その場所は、周りと比べると不自然なほど暗かった。  意図的と思えるほど、光る砂がひとつもない。まるで大きな穴が地面に開いているかのようだった。 「王女が消えたという時もこうだったのか?」 「まさか!」  メリーは驚いて、頭を大きく左右にふった。 「ここは一際光が強そうな場所でした。だからここで、と」 「……そうか」  つまり、王女が消えて、光る砂も同じように消えたということだろうか。だが、メリーだけ残されたのは何故なのか。ラトスは周囲をうかがい、同じように光がない場所を探してみた。だが、似たような場所は特に見当たらなかった。
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