1・工藤晶の落とし物

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 たかがキーホルダーのためにここまでするなんて自分でも馬鹿げていると思った。   二十分ほどでやって来たタクシーの乗り込み、行き先を伝える。  自分がつい数時間前まで飲んでいた場所だ。  今日飲んだ場所は、居酒屋『京』。  夜の八時頃に付近で待ち合わせたのだが、大通りの裏手ということもあって人はまばらだった。  たとえ人が多かったとしても、あんなキーホルダーをわざわざ拾う者などいないだろう、と自分を落ち着かせるため楽観的(らっかんてき)に考える。  道は空いていて三十分もかからずに到着した。  降りる直前で、この辺りを流しているタクシー会社はあるか、と運転手に聞いた。  運転手は、けっこうありますよ、と答えた。  やはりそうだろうな、と思い降車する。  来た時よりも更に人気(ひとけ)は無かった。  帰りはどうだったろうか、と考えるがあまり記憶が無かった。  飲んでいた居酒屋『京』の暖簾(のれん)は下げられていた。  しかし中の明かりは点いている。  引き戸式の扉に手を掛けると開いた。  丁度、目の前に従業員の女性がいた。  ()き掃除をしている。
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