1・工藤晶の落とし物

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 顔を上げ、今日は終わりです、と言う。  晶の顔を見て、あれ? という顔をする。 「すいません、さっき、と言っても十時くらいだと思うんですけど、こちらで飲んでいた者ですが」  と晶は言った。  顔が熱くなるのを感じた。  女性の従業員が、ええ、と言って頷いた。  やはり不思議そうに。 「忘れ物が無かったでしょうか?」 「忘れ物ですか? どうだったかな、ちょっと待って下さいね」  従業員は小さく頭を下げ、奥の厨房の方へ向かう。  飲んでいる時は気が付かなかったが、随分と小柄な女性だった。  頬に汗が伝う。  それを手の甲で拭う。  頬が髪の毛に張り付いている。  帰ったらシャワーを浴びようと思った。  きっとすぐにキーホルダーを持ってやって来るはずだから。  しかし従業員は手ぶらだった。  そして、何も無かったようです、と申し訳なさそうに言った。  礼を言って店を出る。  ここでなければやはりタクシーに乗るまでの道中か、タクシーの中だろう。  しかし、どうやってタクシーに乗ったかをはっきりと記憶していない。  二件隣に同じような居酒屋があった。  その奥にはバーがある。
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