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顔を上げ、今日は終わりです、と言う。
晶の顔を見て、あれ? という顔をする。
「すいません、さっき、と言っても十時くらいだと思うんですけど、こちらで飲んでいた者ですが」
と晶は言った。
顔が熱くなるのを感じた。
女性の従業員が、ええ、と言って頷いた。
やはり不思議そうに。
「忘れ物が無かったでしょうか?」
「忘れ物ですか? どうだったかな、ちょっと待って下さいね」
従業員は小さく頭を下げ、奥の厨房の方へ向かう。
飲んでいる時は気が付かなかったが、随分と小柄な女性だった。
頬に汗が伝う。
それを手の甲で拭う。
頬が髪の毛に張り付いている。
帰ったらシャワーを浴びようと思った。
きっとすぐにキーホルダーを持ってやって来るはずだから。
しかし従業員は手ぶらだった。
そして、何も無かったようです、と申し訳なさそうに言った。
礼を言って店を出る。
ここでなければやはりタクシーに乗るまでの道中か、タクシーの中だろう。
しかし、どうやってタクシーに乗ったかをはっきりと記憶していない。
二件隣に同じような居酒屋があった。
その奥にはバーがある。
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