1・工藤晶の落とし物

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 あとは外灯。  暗い、とても。  ここでタクシーを捕まえたとは考えにくい。  表通りまで歩いて行ったのだろう。  あるいは電話をしてここまで来てもらったか。  大通りへ行くには一つの道しかない。  そこもまた薄暗く、店も数軒だけ。  その数軒の店も明かりが消えている。  目を凝らし、道を探す。  ゆっくりと歩を進める。  遠くで犬が鳴く。  だんだんと人の歩く音、声が増える。  ゆっくりと、時には立ち止まりながら歩く。  何か光るものが目に入り屈むと、瓶の破片(はへん)だった。  見付からなかったらそれまでだ、と晶は思った。  きっとそろそろ手放す時が来ていたのだろう。  いつまでも未練(みれん)がましく持っていた自分が悪いのだ。  あんな物はもっと早くに捨てていれば良かったのかもしれない。  いいきっかけだったのだ。  タクシーに落としていることも考えたが、会社をあたり電話で確認することまではしないだろう、と思った。  大通りにそろそろ差し掛かろうとしていた。  居酒屋チェーン店の明るい看板が見えた。  車の走る音も、大勢の騒ぐ声も聞こえた。  コンビニの横にあるごみ置き場。
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