1人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「この馬鹿者がっ」
「はい、誠に申し訳ございません」
私は片膝をつき、深々と頭を下げた。それでも、大死神様の怒りは一向に収まる気配はない。
それもそうだ。今日、私は、とんでもない失態を冒してしまったのだから。
人間の世を訪れる時、死神は黒猫の姿を借りる。私もご多分に洩れずそうだ。
しかし、本日は、猫の習性に負け、赤とんぼを追いかけるのに夢中になってしまった。
そして、つい、自転車の前に飛び出してしまった。
──本当に情けない話だ。穴があったら入りたい。
自転車は私を避けようとして、乗っていた人間を放り出した。人間は打ちどころが悪かったらしく、お亡くなりなられた。
これに死神たちを取り仕切る大死神様は、ひどくお怒りなのである。何故なら、その人間は死亡者リストに載っていなかったのだから。
死神はあくまでも死亡者リストに載っている人間の魂を狩る。これがモットーである。
何があっても、これを捻じ曲げてはいけない。
「お前の不注意で、人間を死に至らしめるとは。おまけにその人間を勝手に生き返らせるとは。お前は一体、何者か?」
「お言葉ですが、あの人間は、死んで生き返ったのですから、結果オーライなのでは…」
その言葉が、ますます大死神様の怒りを買ったようだ。大死神様の顔が朱に染まる。
「だから、お前は、いつまでも半人前なのだっ」
延々と続く、大死神様の説教を聞きながら、私は、「神さま、お願いっ。私を助けて下さい」と心の中で願うのであった。
最初のコメントを投稿しよう!