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「ねぇ、神様、お願い」
あたしは、目の前の男に懇願した。
黒いローブのフードを目深に被り、黒光りする大鎌を持った、いかにも死神然としたそいつに。
「お願い、と言われましても…」
死神は、少し困ったように言って、髑髏の面を外し、フードを脱いだ。
あ、それって、お面だったんだ、とあたしは感心する。
髑髏の下から現れた顔は、ギリシャ彫刻のように彫が深い、非常に整った顔。30手前くらいの青年だった。
あたしは、思わず、見惚れる。
「私は死神ですから、生死に関わることしか操作できないのです…」
死神は眉根を寄せ、申し訳なさそうに言った。
「そんな、わけないでしょ」
あたしは必死に食い下がる。
あたし、松本綾。高校2年生。
ついさっき、飛び出して来た黒猫を避け損ね、乗っていた自転車から派手に放り出された。
そして、打ちどころが悪かったらしく、そのまま、ぽっくり。
今に至る。
死んでしまったのは、運が悪かったと、諦められるよ。
でもね、とあたしは足元にある自分の抜け殻を眺めた。
──飛ばされた拍子にスカートが捲れ、クマのパンツが丸見えなのだ。
いやいや、ないでしょ。死に際に、パンツ晒すなんて、考えられない。しかも、クマのパンツなんて…。
あたしは、キッと死神を睨みつける。
「生死を操れるなら、ヒューと風を吹かせて、捲れてるスカートを直すくらい簡単でしょっ」
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