0人が本棚に入れています
本棚に追加
峠の裏道
翌日、宿屋の娘に案内されてふたりの旅人は村を発った。
相変わらず、マントとマフラーで容姿を隠している。
そして、このふたりの間には何か取り決めがあるのか、今日は剣士が荷物持ちに変わっていた。
「こちらです……」
「なかなか骨が折れるな」
「あまり声を上げないでください。こちらの気配を悟られます」
女剣士は率直な感想を述べたが、先を進む娘はそう言って制した。
ここまでの道のりも、すでに寂れた裏街道だ。整備はほとんど行き届いていなく、街道は雑草が生え、敷石はあちこち雨で流されていて足下が悪かった。
それが宿屋の娘の案内する裏道はさらにヒドい。出るという山賊を回避する裏道は、獣道に近いだろう。
まあ裏道なのだから、ますます人が使わないのだから、しっかりと足下が固められているわけでもない。
先を行く宿屋の娘は、さすが田舎の者といったところか。
雑草が生い茂る山道をかき分けて進んでいく。その次を元従者……黒髪短髪の女性に、荷物を持っている女剣士。だが、妙に宿屋の娘は小走りに進んでいく。まるでふたりの旅人を突き放そうとしているかのようだ。
「そんなに急がないでくれ……」
遂には一番後ろを歩く、女剣士が音を上げた。連れの短髪の女性が止まる。しかし、宿屋の娘は止まらなかった。
「――どうなっている?」
口数の少ない短髪の女性も、さすがに不審に思ったようだ。
彼女は女剣士を気にして止まったのだが、案内しているはずの宿屋の娘はふたりに目もくれず、先に行ってしまった。
獣道に取り残されたふたりだけ。
「ボク達は騙されたかな?」
「――オレがか?」
女騎士はさすがにキツイ山道に息切れしているようで、顔を隠しているマフラーを取った。
短髪の女性もマフラーを外した。
「……キティ。帝都を出るときにこの街道に山賊が出る、なんて聞いたか?」
「いや、オレは聞いてない」
キティと呼ばれた女剣士は首を横に振る。
「……だとすると、あの宿屋の亭主が言ったことは間違っていたのか。
ボク達を、何のためにこの道に案内したのか……」
そうなると、ここに連れ込んだ娘の行動がよく解らない。
短髪の女性はあごに手を当てて考え込む。
「山賊に脅されているのか、あの宿屋の人たちは!」
「――なんでそうなる?」
「だってそうだろ、ミア?
こんな山奥に引きずり込む必要はない。オレ達を襲うなら、宿屋で寝ている間に襲えばいいだろ?」
そう言うと、急にキティは握りこぶしを作り、近くの木に怒りをぶつけた。
「くそッ! 君を危険にさらすなどと!」
「……キティ。自分ばかり背負い込まないでくれ」
「ミア。では、荷物を少し……」
「――それは約束だ」
くるりと短髪の女性、ミアは背を向けて行ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!