峠の裏道

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峠の裏道

 翌日、宿屋の娘に案内されてふたりの旅人は村を発った。  相変わらず、マントとマフラーで容姿を隠している。  そして、このふたりの間には何か取り決めがあるのか、今日は剣士が荷物持ちに変わっていた。 「こちらです……」 「なかなか骨が折れるな」 「あまり声を上げないでください。こちらの気配を悟られます」  女剣士は率直な感想を述べたが、先を進む娘はそう言って制した。  ここまでの道のりも、すでに寂れた裏街道だ。整備はほとんど行き届いていなく、街道は雑草が生え、敷石はあちこち雨で流されていて足下が悪かった。  それが宿屋の娘の案内する裏道はさらにヒドい。出るという山賊を回避する裏道は、獣道に近いだろう。  まあ裏道なのだから、ますます人が使わないのだから、しっかりと足下が固められているわけでもない。  先を行く宿屋の娘は、さすが田舎の者といったところか。  雑草が生い茂る山道をかき分けて進んでいく。その次を元従者……黒髪短髪の女性に、荷物を持っている女剣士。だが、妙に宿屋の娘は小走りに進んでいく。まるでふたりの旅人を突き放そうとしているかのようだ。 「そんなに急がないでくれ……」  遂には一番後ろを歩く、女剣士が()を上げた。連れの短髪の女性が止まる。しかし、宿屋の娘は止まらなかった。 「――どうなっている?」  口数の少ない短髪の女性も、さすがに不審に思ったようだ。  彼女は女剣士を気にして止まったのだが、案内しているはずの宿屋の娘はふたりに目もくれず、先に行ってしまった。  獣道に取り残されたふたりだけ。 「ボク達は騙されたかな?」 「――オレがか?」  女騎士はさすがにキツイ山道に息切れしているようで、顔を隠しているマフラーを取った。  短髪の女性もマフラーを外した。 「……キティ。帝都を出るときにこの街道に山賊が出る、なんて聞いたか?」 「いや、オレは聞いてない」  キティと呼ばれた女剣士は首を横に振る。 「……だとすると、あの宿屋の亭主が言ったことは間違っていたのか。  ボク達を、何のためにこの道に案内したのか……」  そうなると、ここに連れ込んだ娘の行動がよく解らない。  短髪の女性はあごに手を当てて考え込む。 「山賊に脅されているのか、あの宿屋の人たちは!」 「――なんでそうなる?」 「だってそうだろ、ミア?  こんな山奥に引きずり込む必要はない。オレ達を襲うなら、宿屋で寝ている間に襲えばいいだろ?」  そう言うと、急にキティは握りこぶしを作り、近くの木に怒りをぶつけた。 「くそッ! 君を危険にさらすなどと!」 「……キティ。自分ばかり背負い込まないでくれ」 「ミア。では、荷物を少し……」 「――それは約束だ」  くるりと短髪の女性、ミアは背を向けて行ってしまった。
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