峠の山賊

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峠の山賊

 宿屋の娘の歩いた後は、倒れた草木で分かった。  それを通ればどこかに出られるはずだ。キティとミアはそこを進む。と、(ひら)けた場所に出てきた。恐らく元の街道だろうか。  それに……。 「――例の山賊か?」  ミアが目にしたのは、開けた街道に座り込んでいる男たちだった。  五人の男は、ふたりが獣道から出るところを待ちかねていたようだ。先に行ったはずの宿屋の娘は……今のところ見当たらない。  男達は腰を上げ、ふたりの前に立ちはだかるように展開した。手には粗末な作りの剣や槍など……その刃先がふたりに向けられる。  普通だったら……いや、大人の男でも、脅えて当然な状態のはずだ。だが、そんな中で、後方にいたキティが前に出て声を張り上げた。 「問おう! 貴様らが山賊か!」 「だったら何だ! 金目のものを置いていけ、女も置いていけ!  俺達の慰みものにしてやる。もっとも、お前ら男か女か判らないがなッ!」  と、中央の男が高笑いをはじめた。  その途端、。 「――ぐっきゃぁッ!」  悲鳴なのか、よく解らない声を上げてその男が倒れ込んだ。  そして先程まで男がいたところに、金髪碧眼の美女が立っている。剣の柄頭を突き出して……。 「ミアを気持ち悪い目で見るなッ!」  金髪碧眼の美女……フードの取れたキティが叫んだ。  その瞬間に背負っていた荷物を放り出すと、剣に手をかけて突っ込んできた。そして、男の鼻先目がけて柄頭を叩きつけたのだ。  男は鼻先を砕かれ、悶絶して倒れ込む。その場に残ったのはキティだけ。  続けて彼女は、右の男を睨み付ける。 「ひっ!」  その形相に男はひるむ。次は自分ではないかと……。  しかし、キティの抜いた剣先はその男の鼻先をかすめると、反対の左側で状況を飲み込めないで唖然としている男の右頬に、剣のブレードを叩きつけた。刃の立っているところではない。(フラー)の部分だ。とはいっても鉄板が不意に叩きつけられたのだ。脳しんとうを起こして左側の男は倒れた。  彼女はくるりと体をねじり、続けて目を付けていた男の前に一歩踏み込んだ。  返す剣を叩きつけるかと思った……男もそう思ったのだろう。しかし、男は手にした剣を身構えたが、キティは止まった。  にやりと不敵に彼女が笑う。  何をするかと思ったら左手が飛んできた。(こぶし)が喉仏に叩き込まれる。呼吸困難に陥り、こちらも倒れ込んだ。  残りはふたりだ。  並んだときの右端と左端……両方とも槍を装備していた。  先程倒した隣の男――右端が先に動いた。  槍を突き出した。だが、キティが腰をねじり、さらりと槍先を避け、()を左手で捕まえた。男は彼女から槍を取り戻そうとするが、ビクともしない。そのまま彼女は槍の柄を叩き切った。しかし、剣が勢い余ってか、地面に突き刺さってしまった。隙ができたと、男は槍を捨てて彼女を押さえ込もうとする。  まだ油断があったのかもしれない。女だから力任せに押さえ込めると。しかし、キティは左足を軸に右足で回転蹴りを食らわせた。  彼女の(かかと)がみぞおちに入り込み、吹っ飛ばされて男はそれで終わった。 「うっ、動くなッ!」 「キャーっ!」  最後に残った男の声が聞こえてきた。それに女性の悲鳴が続く。  キティがそちらを見ると……消えた宿屋の娘が男に捕まっているではないか。喉元にナイフを突きつけられて。 「動くな。この女の命が惜しければ……おい、動くなって言っているだろ!」  男の言い分では、宿屋の娘は人質に取られているように見える。しかし、キティは無視する。剣を地面から引き抜くと、ゆっくりと歩み近づいていく。  剣を持ち替え直し、剣先を突き出した。  そのまま突っ込む気なのか。人質ごと貫くつもりだろうか。 「オレの爺様(グランパ)は言った。  攻撃は最大の防御なり。自分の命を護らずは、まず敵をたたきのめすべし。  自分の命を守れないものは我が……」 「なっ……うきゃー」  キティが突っ込もうとしたとき、その前に男から悲鳴が上がった。  男は肩を押さえながら倒れた。その肩には短い矢が刺さっている。  どこから飛んできたのであろうか。そういえば、先程からもうひとり……短髪の女性、ミアの姿が見えない。 「――お前の家訓を人に押し付けるな」  倒れた男の後ろの藪にミアの姿があった。  その手には短弓(ショート・ボウ)が握り締められている。マントの下に隠し持っていたのであろう。いつの間にか藪の中に入り込み、男達の後ろに回り込んでいたようだ。  残されたのは宿屋の娘のみ。山賊の男達は悶絶しているか、負傷して動けない。 「えっ……あっ、ありがとうございます!」  娘は倒れた男達を見回すと、慌てて頭を下げた。 「そんなことで騙されると思うか!」  キティが声を上げた。ミアが続ける。 「さっきまで隠れていただろ?   山賊のほうが不利になってから人質のようなフリをしていたが、仲間と見て間違いない」  ミアはキティの援護を、と男達の後ろに回ったときに、偶然にも宿屋の娘の行動を見ていたのであろう。 「なっ、何のことですか?」  それでも宿屋の娘はシラを切るようだが、キティが剣を握り直して近づいてくる。 「ミア。オレ達は山賊に襲われたよなぁ」 「ああ……」 「これは正当防衛だよなぁ」 「ああ……」 「たまたま巻き込まれた、案内役はかわいそうだよなぁ」 「ああ……」  キティはどんどん近づいていく。剣を振り上げながら……。 「えっ、あ……ちょっと、待ってください!」
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