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いったい何事なんだ?ボクの疑問に答えてもらうどころじゃない。余程のことがあったらしい。参ったなあ。
病院から帰ってきたのは、辺りがもう暗くなってからのことだ。
買ってきた弁当を食いながら、父さんはポツポツと話し始めた。
両手で持った湯飲みをじっと見つめたままで。
「あのな、啓介
母さんの両親は再婚で、父親が実の親じゃなかったことは知っていたと思うが…。
その両親は……薬物中毒者だったらしくて、母さんは小さいころからずっと…二人から虐待されて育ったんだ。
その虐待もなぁ…薬の金欲しさに幼い母さんに働くことを無理強いしてなぁ。……それも随分いかがわしい、非道なことを…な…させられてたんだよ。
可哀そうになぁ。ぶたれたり蹴られたりして、まだ子どもだった母さんには、両親の言うことを聞く以外には……生きていく方法がなかったんだなぁ。
中学を卒業して、社員寮に住み込みで働くようになってからは、殴る蹴るの暴力を振るわれることはなくなったんだが…。
何しろなぁ…狭い町のことだから、母さんの素性はすぐに職場にも知れてしまって、寮にいてもな…結局娼婦みたいなことに…なっちまったんだ」
<嘘だろ!そんなこと、信じられないよ!
あの優しい母さんが?ありえない!
美人だし、いつもニコニコしていて、美味しいご飯作ってくれて……
友達からもうらやましがられてたんだぜ?
嘘だろ?嘘だって言ってくれよ!>
ボクの頭の中では「嘘だ!」って言葉がグルグルと渦巻のように氾濫していた。
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